「さっっっっっむ」
前日の夜から降り始めた雪は、ファーガスにここ一番の寒冷をもたらした。もちろん冬なので毎日寒いのだけど、今日が一番冷え込んだ。部屋の中ですら吐息が白い。執務室の暖炉に火をつけて、部屋が暖まる間に今日の仕事の確認をする。
今日はディミトリの誕生日だ。数日前からドゥドゥーやギルベルト殿と相談をし、この日に向けて業務の調整を行った。そのおかげでディミトリの仕事は今日は休み、そのかわり私の仕事は増え、今日まで残ってしまった。しかし、この分なら夜の祝宴には間に合うだろう。
祝宴といっても、国を挙げてのものではない。まだ情勢も落ち着かない地域もあり、戦争の後処理は続いている。なので今年は身近な人が集まって祝おうということになった。集まれる人は集まろうと言ってはいたが、みなこの日のために仕事を調整すると言っていたので全員来るだろう。私も柄にもなくワクワクしている。
執務室の扉がノックの音を立てて開いた。
「おはようルミナ、早いな」
「おはようディミトリ、君こそ今日くらいゆっくりすればいいのに」
いつもの鎧は脱ぎ、普段の私服より厚着をしたディミトリだった。さすがの彼も今日の冷え込みには堪えるらしい。
「なんだか目が覚めてしまってな…。自分の想像以上に今日が楽しみだったらしい。子供じみてるだろうか」
「良いことだよ、それは」
学生の頃は遠慮がちで、戦時中は祝う暇なんかなかった。いつもどこか自虐的で、自分のことに対しては他人事のディミトリが楽しみにしていたと言えたのなら、とても良い傾向だ。心の傷はまだ治らないけど、少しでも今日が良い思い出に満たされればいいと思う。
「さて本日の陛下におかれましては、仕事の一切を我々に任せてのんびりお過ごしください」
「なんだ、鍛錬に付き合ってくれないのか」
「夜までに仕事を終わらせたいからね。鍛錬はドゥドゥー辺りに頼んでくれよ」
そういうと、どこか残念そうな顔で笑った。そんな顔されても今回ばかりはその要求を飲むことはできない。
それじゃ、と部屋を出ようとするディミトリを呼びとめる。
「ディミトリ」
振り向いたのを確認して、手元に用意していたプレゼントの箱を投げる。上手く受け取ったディミトリの驚いた顔に、つい頬が緩む。
「誕生日おめでとう、良い一日を!」