戦争が終わった。熾烈を極めた帝国との戦いは、フォドラ全土に多大な犠牲を出しながらも王国が勝利した。それからしばらくして、セイロス教の大司教を継いだベレス殿とディミトリの戴冠が行われ、名実共にディミトリはファーガス神聖王国の国王となった。
 もう気軽に名前を呼べないな、と思いながら目の前に積まれた戦争の後始末の仕事を捌いていく。みんなが自分の道を進み始め、家督を継いだ者もいれば夢を追っている者もいる中、私は政務補佐官の役目を任されていた。どう考えても私には務まらないと何度もディミトリに訴えたが、信頼できる人間を何人か側に置いておきたいと言われてしまった。国王になったばかりのディミトリの周りにはまだ、敵か味方か分からない人が多い。護衛にドゥドゥーがいるなら、違う方向からディミトリを護ればいいか、と自分で納得させた。落ち着いたら別の優秀な人に引き継げばいい話だ。

 兵士の戦時手当、負傷者の特別手当、親衛隊の編成etc…。いくら人手が足りないとはいえ仕事の振り分けが雑すぎやしないか…?自分の判断ではどうにもならないものは後でギルベルト殿に相談しに行こう。
 ふと、一枚の手紙が目に入る。知り合いからの婚姻報告だった。戦争が終わってから程なくして、故郷の婚約者と無事に婚姻したと綴られていた。こちらも笑ってしまうほどの幸せそうな内容だった。
 
 そういえば、ディミトリにも伴侶を決めてもらはねばならない。言い方は悪いが、国民を手取り早く喜ばせるには婚姻発表が一番だろう。今後何が起きるか分からないし、世継ぎも早々に作ってもらわないと困る。ディミトリに意中の女性がいるならとっとと告白でもして伴侶を作ってくれないだろうか。戦時中は全くそんな存在がいるようには見えなかったが。
 …自分が、ディミトリに恋情を抱いていないといえば嘘になる。けど自分からこの気持ちを伝えることは無いし、むしろ早く相手を見つけてくれた方が吹っ切れて諦めもつくというのに。そうだ、いっそベレス殿とくっつけばファーガスもセイロス教も安泰なのでは!?と、そこまで考えたところで自分の思考が鈍っていることに気づく。疲れているな、と手元の書類に署名をして紙束をまとめる。これをディミトリに提出して、こっちの紙束はギルベルト殿に渡して、そうしたら少し休もう。疲れているからしょうもない思考が働くんだ。

 ディミトリの執務室のドアをノックして入室する。ディミトリもなかなか減らない机仕事に辟易しているのか、机に向かいながら眉間に皺を寄せていた。ディミトリ以外に人がいないのを確認する。
「ああ、ルミナか。どうした?」
「仕事を増やして悪いけどね、こっち確認お願い。」
 そういうと、さらに眉間の皺が深くなった。
「書類が減らん…。すまんがそこの取ってくれ。」
 ほい、と近くに置かれていた書類を渡す。大きくなった体を少し窮屈そうに縮めて椅子に座るディミトリは、贔屓目も入っているがかっこよく育ったと思う。年々ランベール様に似てきた。

 好きだ、と鈍った頭でぼんやりと思う。彼のためなら何でもできると本気で思う。だからこそ慣れない机仕事も、ディミトリのためならできる。幸せになってほしいから、早くディミトリを支えてくれる伴侶を見つけてほしい。

「…ディミトリ、そろそろ伴侶を見つける気にならないか。」
 私の言葉にディミトリは書類から顔をあげた。瞳には疑問と、こちらの真意を探る色が浮かぶ。
「国王が婚約となれば国民も喜ぶし、世継ぎもできれば安心も得られるだろう。それから、少しでも私生活に癒しを見出せると思う。」
「…なるほどな。まぁ、その件については俺も考えていた。」
「そうか、ならなるべく早くこの案件を進めたいな。」
 ちゃんとディミトリも考えていて安心した。これで自分で意中の女性を選んでくれれば御の字。もしいないのなら良さそうな令嬢を何人か見繕えばいい。どちらにしろ、思ったよりも早く進みそうで安心した。

「ルミナ、伴侶のことだが。」
「ん?」
「俺はお前を、伴侶に迎えたいと思っている。」

 時が止まったように感じた。この男は今、何と言った?

 ゆっくりとディミトリの顔を見る。冗談を言うような表情じゃなかった。

「俺はルミナが好きだ。だから、お前さえよければこの話を受け入れてほしい。」

 どうして、私なんだろう。


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