ディミトリとの手合わせはいつも疲れてしまう。いや、手合わせ自体疲れるものなのは当然なのだけど、彼の槍をいなすのは相当大変だし、こちらが一本打ち込もうにも隙を見せたら逆に打ち込まれてしまう。せめてフェリクスのように相当な剣の才能でもあればよかったけど、私の剣術なんていかに少ない手数で相手を倒せるか、そこまで打ち合うことを想定したものではない。

「は〜、疲れる…。」
「だらしないな、もう終わりか?」
「あのね、私とディミトリの体力差考えて。それに5年前に比べたら全然マシになった方でしょ。」

 ため息をつきながら結んでいた紙紐を解く。結び方が甘かったのか打ち合っている最中に少し髪がほつれてしまった。そよ風が汗で濡れた髪の隙間を通って気持ちが良い。

「髪、伸びたな。」
「ん、ああそういえば。忙しくて切る機会無かったから…うわっ。」

 突然強い風が吹く。草花を巻き込みながら吹き抜けていく突風は私の髪の毛も舞い上がらせていく。顔に張り付いた髪の隙間から、ディミトリの髪も大きく乱れたのが見えた。

「すごい風だったな…。大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」

 乱れた髪を直して結い直す。ディミトリも顔に引っかかったままの髪を横に流した。

「ディミトリも髪伸びたねぇ。」
「そういえばそうだな…。俺もなかなか切る機会が無くてな。流石に少し邪魔だと思ったから切りたいんだが…。」
「…あ、良いこと思いついた。ちょっと座って。」

 頭に疑問を浮かべながらも座ってくれたディミトリの背後に回って、予備の髪紐を取り出す。長い髪も似合っているんだから、切ってしまうのはなんとなく惜しいと思った。とりあえず邪魔そうな横の髪と、伸びすぎて目にかかってしまっている前髪をざっくりと後ろに流してハーフアップにする。長い髪も似合っているんだから、少し結ぶだけでも良い感じになると思ったのだ。

「できた。これならあんまり邪魔じゃないかな。」
「すごいな、全然違う。」

 髪をハーフアップに結ぶと、先ほどまで隠れていた顔立ちがはっきり見える。前髪も一部を後ろに流しているからか、なんだかランベール様を思い出してしまった。

「しかし、そうやって前髪をあげているとランベール様を思い出すなぁ。よく似ている。」
「父上に?…ああ、父上の髪型も前髪を全部後ろに流していたな。」
「うん、懐かしいな。…せっかく長い髪も似合っているんだからさ、まだ切らないでよ。その髪型、簡単にできるからドゥドゥーにやってもらえば良いし。」
「長い髪の方がお前は好きか?」
「うーん、多分ディミトリなら何でも似合うけど、獅子には鬣があったほうが立派だと思うなぁ。」

 何となく好みだとは言いにくくて、変な言い返しになってしまった。ディミトリは少しポカンとしていたが、やがて私の照れに気づいたのか笑ってしまった。

「じゃあもう少しこのままでいるか。ルミナも、その髪切るなよ。」
「…バレてた?」
「邪魔そうにしてたからな。それに俺は長い方が似合っていると思うぞ。」
「そっ、か…。うん…わかった。」

 さっき私が濁した答えを、こうもはっきり伝えられるととても恥ずかしくなってくる。だけど悪い気は全くなく、切ろうという考えは、あっさり霧散してしまった。

「よし、休憩したし、もう一本手合わせするか。」
「えっまだやるの???」
「ああ、構えろルミナ。」

 まじかよと思いながら剣を持ち直す。明日に疲労が残らないと良いなと思いながら目の前のディミトリを見据える。槍を構えるディミトリは、昔気まぐれで鍛錬に付き合って下さったランベール様の姿と重なって、懐かしく思うと同時に、何だか切なくなってしまった。
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