「お前も俺を置いていったじゃないか。」

 怨みがましい声と乾いた笑みでディミトリは私を見つめた。彼の右目は怪我で傷ついたのか、塞がっている。氷のように美しかったアイスブルーの瞳は今や、本物の氷のように凍てついてしまっていた。あの美しかった金の髪もすっかり伸びて、ところどころが土埃や血で汚れてしまっている。もう、2年前の面影はどこにもなかった。



 帝国がガルグ=マク大修道院へ侵攻してから、私は島に帰っていた。この島なら少なくとも今すぐ侵攻されるわけではないからと、父は私がファーガスに残り戦乱に身を投じることを良しとしなかった。それからしばらくして、王子ディミトリの処刑、フェルディアの政変によりファーガス神聖王国は実質崩壊と聞いた私は居ても立っても居られず、家族の静止を振り切り島を飛び出した。
 フェルディアに潜入すると、処刑をしたというのにディミトリの死体は隠されたままだという。きっと生きていると信じ続けて、残った王国内で傭兵として各地の抗戦に参加していると、帝国の軍隊への奇襲、将が惨殺されたという噂を耳にした。あくまで噂であったが、ディミトリかもしれないと淡い期待を持ち捜索したところ、変わってしまったディミトリが、いた。ドゥドゥーの姿は、どこにも見当たらなかった。





「父上も継母上もグレンも、あの惨劇で死んでいったものたちが俺に武器を持て、殺せと言う。奴らを皆殺しにするのだと、語りかけてくる。ならば、生き残った俺はそうしなければならない。復讐を。それが生き残ってしまった者の使命だ。」

 いつだったか、いまだに夢に出ると言っていたことを思い出す。ディミトリは、5年経った今でも死者に囚われ続け、復讐の為に生き続けている。そこにいるディミトリは、人の形をした獣のようなものだった。

「お前はあの惨劇の中、俺を生かし、生き延びて、俺を置いていった。俺の前に現れたのなら、もう逃すものか。復讐の為に剣をとれ、それが生き残ってしまった者の使命だ。お前が俺を生かしたんだ、俺と共に復讐を、」

 一度だけ、責められたことがあった。どうしてあのまま一緒に死なせてくれなかったんだ、と。そのあとすぐにハッとして謝られたが、あれは本音だったし、今でもずっとそう思っているんだろう。

「───ああ、ディミトリ。お前が望むなら、復讐の剣となろう、盾となろう。私は君の、従者なのだから。」



 きっと、それが私の罪だった。






title:透徹
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -