及川徹を待つ


最終回ネタバレ有り



 本当は別れた方が名前のためだけど、俺は別れたくないから、待ってて。でも待てなくなったら俺のこと捨てていいよ。

 及川がアルゼンチンに行くことを決めた時に、言われた。テレビの向こう側では解説者が及川が帰化したことを伝える。そりゃそうか、アルゼンチン代表でオリンピックに出るんだもんな。付き合い始めの頃から、ホセ・ブランコに憧れていることを何度も何度も聞いた。そんな人のもとでバレーができるなんて、及川すごく頑張ったんだろうな。
 別に、及川のことなんて待つ必要はないのだ。職場にはかっこいいなって思う人もいるし、合コンにだって行く。それでも誰かと新しい恋をするほど、意欲的にはなれない。結果的に及川のことを待つ形になってしまっている。単純な人間だ。待ってて、なんて言葉を律儀に守っている。友達に婚期逃すよなんて言われるのも当然だな。

 画面の中の及川のサーブが決まる。やっぱり好きだなと思った。バレーが好きで、才能の差を見せつけられてもやめることなく、ずっとバレーに打ち込んできた及川が好きだ。
 手元にスマホを引き寄せて、メール画面を開く。よっぽどのことがなければ連絡を取ることのなかったアドレスを出す。

『早くしないと婚期逃すらしいですよ』

 まぁ、律儀に待っているのだからこれくらいの急かしはいいでしょう。送信ボタンを押そうとして止まる。オリンピック真っ只中に送るメールじゃないなこれ。

back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -