誓約


「「は?」」
「聞こえなかったか?私は忙しい。涼弥を置いていくが話は後だ、私が来るまで旧市街を出るな、いいな?」

 と、言い残して莉芳は去っていった。
 ここ見琅館は里見が運営している宿場で、なかなか教会の人間が立ち寄ることがない旧市街での拠点となっている。

「…とりあえず受付しとこうか」
「そうですね。すいませんが涼弥、お願いしていいですか?」

 荘介の言葉に頷き、顔馴染みの女将さんを呼ぶ。まあ一番いい部屋でいいか、「支払いは里見莉芳で」というと良い笑顔をしてくれた。部屋の鍵を受け取り、従業員の初さんに信乃たちの案内を任せる。後でいくから、と言い後ろ姿を見送ったところで、ここからは仕事の話だ。

「女将さん、笙月院の鬼のウワサ、何か進展ありました?」
「それがねぇ、笙月院のお坊さんたちが捕まえたらしいのよ」
「…へぇ?」





「それにしても涼弥、だいぶ背伸びたよな」
「同年代の娘よりは伸びたとは思うけど、信乃は変わらないねぇ」
「いや!俺だってちょっとずつ成長してる!はず…」

 確実にイエスと言えない発言に苦笑いを返す。信乃が成長することは、今のままでは一生ありえない。村雨の呪いのせいだ。私のように他者と命を分け合ったものは、人より丈夫になるが成長速度は変わらない。しかし村雨はとっておきの厄物、所持者の魂を喰らう呪いの刀。適合したとはいえ信乃の身体に影響を及ぼしていることは確かだ。

「涼弥はこの4年間どうでした?手紙では里見さんの部下をやっているって書いてありましたけど」
「うーん、めちゃくちゃ鍛えられたよ。山に置き去りにされてサバイバルとか、剣術武術…教会のしきたりも仕込まれたし書類も捌けるようになった」
「…なんか、思ったより大変そうですね」
「でもなんで涼弥は良くて、俺たちは5年もほっといたんだあいつ」
「莉芳と約束してたのよ、強くなりたければ来いってね」
「ふーん…そういえば里見のやつ、いつ来るんだ?」
「今日の仕事内容的に、明日の朝になるんじゃないかなぁ」
「げっまじで!?じゃあ飯食って休もうぜ荘介!」

 まだまだ時間があると知りベッドに沈んだ信乃。本当は私も一晩ゆっくり話がしたかったがそうもいかない。

「じゃあ、従業員さんにご飯頼んでおくよ。それから旧市街の範囲なら動いても大丈夫だから散歩してもいいよ。私はこれから仕事があるから、また明日」
「えー!もういくのかよ」

 むくれる信乃を撫で、名残惜しいが部屋を後にする。女将さんから聞いた鬼のウワサが本当なのかどうか確かめなければいけない。ウワサの鬼が偽物なら坊主たちでもなんとかなるが、本物だった場合どうするべきか見極める必要がある。外套を着込んで旧市街の人並みに紛れ込んでいく。





 さて一晩、集まった情報は正確性には欠けるが、笙月院が鬼を捕まえたのは確からしい。坊主たちの会話も聞けたのでそこは確実だろう。憲兵隊の隊長が一人、無断欠勤が続いているらしい。捕らえた時期と照らし合わせても無関係とは考えにくい。ただ、その隊長さんが本物の鬼かどうかまでは分からなかった。
 もう昼過ぎになってしまった。もしかしたらもう屋敷に戻ってるかもしれないなぁと思いつつ見琅館に戻る。

「戻ったか」
「あれ、莉芳いたの。てっきりもう屋敷に戻ってるかと思ってた。信乃たちは?」
「不貞腐れて街に出た。戻ったら屋敷に戻るからお前も準備しておけ」
「了解」

 向かいの椅子に座って一息つく。流石に夜通し行動は疲れる。

「そういえば朱雀門に鬼が出るというウワサ知っているか」
「ああ、それね。もう捕まってるってのは聞いた?」
「さっきな」
「捕まったのは事実。で、ここからは憶測。鬼というのはおそらくヒトで、憲兵隊隊長、犬飼現八ではないかってのが一晩の調査結果」
「犬飼…」
「知ってるよね、3年前だから私も覚えてる」
「そうだ、3年前の北部の生き残りだ。お前たちと同じだな」
「…」

 それって、私たちと同じで生き残るために願ったものってこと?
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