邂逅


「お前の兄弟たちがくる」
「は?」
「教会の爺どもが動き出したのもそうだが、要が五狐を使ってお前の妹をこの屋敷に連れてきている」

 莉芳の任務を終わらせて報告に戻ってきたら突然の情報量に目眩がした。とりあえず要様は殴ってもいいと思う。それよりも浜路がここにいる?

「は、浜路はどこに」
「要が相手してるだろ。それより準備をしろ、教会本部の奴らより先に迎えに行かなければならない」

 浜路のことが気がかりだが、準備をしろと言われたらしなければならない。4年近くも経つと悲しき部下根性がついてしまった。車の手配をしなければ。確かに教会本部に先を越されてはまずい、信乃たちの安否というよりも周囲の安否の方が不安だが、目をつけられたら厄介だ。




 莉芳のもとにきてもう4年近くになる。あの事件から私は、あの時の言葉を忘れずにいた。信乃たちを守りたい一心で、強くなるためにきた。もちろん、莉芳のことも気がかりだった。けれど、莉芳から求められたのは異父兄妹としてではなく上司と部下という線引きだった。まあ、しょうがない。莉芳の事情を考えればこうして私一人でもそばに置いてもらえるだけマシというものだ。
 信乃たちとはずっと手紙のやりとりばかりだった。なにも変わらない生活、荘介の心配事、浜路の話、離れていてもずっとそばにいるような感覚が嬉しかった。このままずっと山奥で、教会本部に目をつけられることなく暮らしていてほしかったが、時間の問題だったのだろう。


「奴らはいるか?」
「いや…まだ着いてないみたい。でも土地がざわついているから次に到着する列車かな。ただ、本部の人たちも来ている」
「…降りて待つぞ」

 運転手に待っているよう頼んで、車を降りる。次の列車が着くのはあと20分くらいか。それなら莉芳も待っていても大丈夫だろう。
 村雨が近づくにつれて、土地の霊脈がざわついている。村雨の気は水の気だ。あまりに強すぎても困るので土の気を少し強めてバランスをとっておく。私の仕事ではない気がするが。

 私と契約をした山神は真上《まかみ》と名乗った。大塚村を含む大塚山の山神だったそうだが、あの事件で力の源である村人の信仰が急速に薄れていき、死にかけだった私と契約をして生き永らえたというわけだ。おかげさまで私もこうして生きているが、五行を操る力、結界術など、人には見に余る力が宿った。真上の力だが、力の規模を考えると本当にただの山神だったのかという疑問ばかりだ。

「列車がついた、行くぞ」

 無言で肯首し先を行く莉芳の後を追いかける。この人の周囲を気にせず突き進むところは信乃と似ていて、一見異父兄弟に見えなくてもそんなところは似ているものだから、懐かしくなる。
 駅の構内に向かうとどうやら先を越されていたらしく、本部の人間が信乃たちを囲んでいた。さてどう追い払おうかと思案していると、莉芳はそのまま突っ込んでいった。まああれくらいの連中なら、莉芳をどうにかしようとするやつはいないだろうと少し離れたところで見守る。お、戻ってきた。

「涼弥!」
「信乃、久しぶり」

 飛びついてきた信乃を受け止めて抱きしめる。13歳の頃から変わらない姿、年齢にしては小さな身体は全然成長していない。大きくなる私と変わらない信乃、双子なのにどんどん乖離していくことに、目を逸らし続けていた不安が広がる。必ず、呪いを解く。
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