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こんにちは!私羽月!
現代を生きるJKです!

いや、JKだった。と言うのが正しいのかな。


「冨岡氏ぃ!」

「羽月か」

「こんにちは!お邪魔しまっす!」


なんと私、あの有名な漫画の世界にトリップ中なのです。
信じる?いや、信じるわけ無いよね。

だけどそこは限界オタクのポジティブな思考に乗っ取り今を元気よく生きてる。
トリップと言うものが何なのかくらいは知っていたし、推しに会えるなんて幸せ以外の何者でもないじゃん。

まぁトリップしたからと言って特殊設定などは無かったようだから平凡に町で仕事を探して日々を過ごしていたのだけれど。


でもね、でもですよ。
私が何となく選んだ職場が推しの良く来る反物屋だったのです。


「今日もかっこいいですな。某眼福でござる」

「羽月は武士だったのか」

「推しの為なら武士にもなる」


余りにおかしな言葉遣いをしても冨岡氏は突っ込まないので、あえてこのままを押し通すつもりでいる。
こうすれば彼の記憶に留まれると思ったから。

しかし相変わらずいい匂い。
最高です。フレグランス以上にフレグランス。

何言ってるんだろう私。


「これを」

「はいはい、羽織りの修繕ですね…ん?何ですか、これ」

「…髪が鬱陶しいだろう」


羽織りと共に出された箱に思わず首を傾げる。
鬱陶しい髪の毛で大変申し訳無い、なんて言うと思ったか!
何故なら私はトリップした人間。
彼が言葉足らずなのは知っているのだ。

心の中でドュフドュフ笑いながら箱を開けてみれば飾りの付いた藤色の髪ひもがきらきら輝いている。


「はっ!?こんな素敵なもの拙僧に!?」

「僧侶だったのか」

「寧ろヒーラーは冨岡氏。じゃなくて、本当にこれいいんですか?渡す相手間違ってません?」

「他に渡す相手なんて居ない」

「かっ」


何これ何かのイベント?
私の方を真顔で見る冨岡さんに、生きてきた十数年異性からプレゼントなるものを貰ったことがない心臓がバーサーカー状態になる。

下手に勘違いしては駄目だ。
彼はなんて言ったって冨岡義勇だ。

天然たらし、一部にいらふわ系男子の冨岡義勇だ。

私は騙されないぞ。
ただの感謝の気持ちなんだこれは。

この間数秒。


「あ、ありがとうございまっす!」

「あぁ」


とりあえず大声で冨岡さんにお礼を言ったらお店の奥から何かが落ちた音がした。
大将驚かせちゃったテヘ。

とりあえず冨岡さんの羽織りを丁寧に机の上に置いて注文書の記入をしていると、目の前に影が落ちて顔を上げれば至近距離に端正な顔のどアップ。

心臓出てない?大丈夫なのこれ。
私は生きてますか?
臓器は無事ですか?

深海のような瞳に見つめられたまま息を止めてまた脳内会議をスタートさせた。
今日の冨岡氏やばい。距離感がバグっている。

私が阿呆だから興味でも湧いたのだろうか。

けれどどんなに脳内会議をしても私が冨岡さんの心なんて読める訳が無い。


「見せてくれないのか」

「みみみみ、見せてくれないのかとは!?」

「それをつけた所が見たい」

「あっ、あーっ!なるほど!暫し待たれよ!」


注文書を書く手を止めて慌てて箱から髪紐を取り出し出来る限り丁寧に結い上げてみる。
髪紐を口で咥えたら花の香りがするし、いい香りの人がくれる物はいい香りがするのだろうかとテンパる頭で考えながら手を動かす。

花の飾りが目立つように位置を整えて目の前にちょこんと座る天使…基冨岡さんに見せてみた。


「ど、どうでしょうか」

「似合う」

「無理、いや待って心臓発作で死ぬ。ありがとうございます」

「体調でも悪いのか」

「滅相もございません。今の私は天にも登る気分です。最高」

「…そうか」


内心推しからプレゼント貰えるとかどんな乙女ゲームだよと叫んでいるがそんな事をしたら今度こそ大将にどやされる。

もう一度お礼を言おうと居住まいを正した瞬間、冨岡さんの手が伸びて来て私の頬に触れた。


「肌見離さずつけてほしい」

「あっー」

「では」


言葉にならない言葉が飛び出せば冨岡さんは少しだけ微笑んで背中を向けてしまう。
戸が開いて吹き込んできた風が彼の香りを運んできて胸が苦しい。


「あ、あの!冨岡さんっ…」

「今度」

「へ?!」

「非番がある日にでも何処かへ行こう」

「っ、よ…よろこんで!」

「また来る」


引き留めようとした私の言葉を遮ってお誘いをした冨岡さんは必死に紡いだその返事に満足そうな顔をして今度こそ店から出て行った。


「ぅ、うあぁぁぁ!!!!まじかぁぁああ!!」

「煩いぞ羽月!」

「大将やばいって!私これ死ぬわ!」

「俺が驚いて死ぬわ!」

「それはだめ!」


後に大将へ冨岡さんからデートに誘われた事を伝えれば目玉をすっ飛ばす勢いで驚いていた。


「冨岡様はお疲れなんだろうな…」

「失礼だなおい」


そんな事を言いながらも、大将はデートの前日に素敵な着物をくれた。
藤色の髪紐で、前よりも丁寧に髪の毛をセットすればまたあの笑顔を見せてくれるだろうか。

早く会いたいな。




おわり。

初トリップ話なのにギャグ。笑
名前変換ほぼなくてすみません…
後悔はない!!




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