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「冨岡君が最近凄く誘ってくるんだけど、あの人何があったの?」

「…あ、あはは」


隣に座る羽月さんから重いため息が聞こえて、俺には笑う事しか出来なかった。
確かに最近の義勇さんは羽月さんに対してその、ちょっと、うん。
凄く一生懸命だ。

原因は俺にもある、と思う。


「羽月さんは嫌ですか?」

「いや、全く嫌ではないんだけど…まるで人が変わったみたいに誘うからさ。しかも気配無く後ろにいつの間にか立ってるからめちゃくちゃ驚く」


俺は今羽月さんの住むお屋敷に居て、柱では無い彼女は家族と共に暮らしている。
彼女と言っても血の繋がっていない、鬼に親を殺された子達を引取っていると聞いた。

現に子供たちの声が屋敷から元気に聞こえてくるし、とても賑やかで俺はこの雰囲気が凄く好きで。


「あっ、炭治郎兄ちゃん!こんにちは!」

「炭治郎にぃ遊ぼー」

「こらこらお前達。炭治郎は今私と話してるから待ってなさい。順番だよ」

「姉さんずりー!」

「ふっふっふ。まぁね!」


小さな子どもたちの頭を撫でながら得意げに笑う羽月さんの笑顔は嬉しそうだ。
任務で初めて会った時は何というか凛々しい雰囲気があったけど、屋敷に戻ればいつもこんな風に優しく笑ってる。
きっと義勇さんもそんな羽月さんに惹かれたんだろうなって、色恋に疎い俺でもなんとなく分かった。


「姉ちゃん!冨岡さん捕まえたよ!」

「失礼する」

「こんにちは義勇さん!」

「冨岡君…」


一人の女の子が義勇さんと手を繋いで俺達の前に現れた。
隣に居る羽月さんからは驚きと、その中に少しだけ喜んでるような匂いがする。

そっと羽月さんの隣を開けて間に義勇さんを入れようとすれば、その糸に気付いてくれたのか手を繋いでいた女の子がそこに押し込んでくれた。


実は俺達、羽月さんと義勇さんをくっつけようとしてるんだ。
俺から見ても、誰から見ても二人が両思いなのは分かるから。

女の子に俺が強く頷けば嬉しそうに笑い返してくれた。


「菓子を、」

「あっ、また買ってきてくれたの?いつもありがとう」

「いや」

「ふふ、大福だ」


箱を開けて嬉しそうに笑う羽月さんを無表情で見つめる義勇さんからは嬉しそうな匂いがする。
いただきます、と言って子供達を集めた羽月さんは貰った大福を配り、俺にも一つくれた。


「炭治郎も食べな」

「えっ、でも」

「いつも頑張ってるお兄ちゃんも、たまには甘やかされなきゃね。いいかな、冨岡君」

「勿論だ」

「……あ、ありがとうございます」


よしよし、と頭を撫でてくれる羽月さんと頷いてくれた義勇さんに嬉しくて有難く大福を貰う。
一口噛めば、大福の甘くて優しい味が口の中に広がって凄く幸せな気持ちになる。

何より、大福を食べる俺達を見つめてる羽月さんと義勇さんの温かい視線が嬉しい。


「羽月はこっちを食え」

「うーん、じゃあこうしよっか」


自分の分を差し出した義勇さんに、大福を受け取った羽月さんが上手に半分に千切った。
半分にするのが上手な所が羽月さんらしくて、思わず頬が緩めていると片割れを義勇さんの口元へ持っていく。


「ほら、あーん」

「……」

「…えへへ、なんちゃって」


唖然とする俺達にイタズラが成功した子供のように笑った羽月さんの手を義勇さんの手が掴んだ。
そのまま大きく口を開けて大福を口に入れる。

余りに驚愕した羽月さんが口をパクパクさせているけど、それは正直俺達も同じでついつい無言で咀嚼する義勇さんを眺めてしまう。


「美味いな」

「!?!?!」

「では俺は行く」

「へっ、あっ!義勇さん!?」

「また来る」


優しく指先で羽月さんのもう片方の大福を奪い、それを開けっ放しの口に入れるとそのまま姿を消してしまった。


「…あ、あの…羽月さん?」

「むぐ、むっ…んむむ」

「おっ、落ち着いて下さい!」


顔を真っ赤にさせた羽月さんが義勇さんの座っていた所を叩く。
口に入っている大福のせいで何を言っているかは分からないけれど、何を言いたいかは何となく分かる。


「なっ…何なの冨岡君は!!」

「え、えっと…」

「姉さん顔真っ赤!」

「仲良しさんだねー!!」


うわあぁぁ、と顔を抑えて叫ぶ羽月さんを子供達が嬉しそうに楽しそうに揶揄っている。
これは多分、どっちもどっちだと思うなぁなんて思いながらこの屋敷から帰ってしまった義勇さんを思い浮かべる。

きっと、義勇さんも顔を真っ赤にしているかもしれない。
だって姿を消す瞬間、恥ずかしいと嬉しいが混じった香りがしたから。


「もういい加減付き合ったらいいんじゃないでしょうかね!」

「炭治郎も何言ってるの!」

「僕達も賛成!羽月姉さんも早く気持ち伝えなよ!」

「えっ、ちょっ…なんで皆知ってるの!?」

「アハハハハ!」


大福の粉が少し顔についた羽月さんがまた顔を赤くしてる。
義勇さんも、もう少しここに居れば良かったのにななんて思いながら皆で一緒に声を出して笑った。

きっと二人が恋仲になったら、幸せな家族になれるんだろうな。



End.
炭治郎視点の付き合う前の二人。
初々しいのが書きたかったんです…




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