「あっち向いて………」
「「ホイ!!」」
「よっしゃああ!負けたぁぁ!」
「あー勝っちゃったぁ…」
「お前ら何してんだァ」
「あっ、不死川先生。これから二人で飲みに行くからどっちが奢るか勝負してたんです」
職員会議の後、私と宇髄先生で飲みに行こうという話になったのでどっちが奢るか勝負していた所に不死川先生が呆れたように入り込んできた。
別にどっちが奢りでも構わないんだけど、何となくこの茶番が好きでいつもやってしまう。
「んだよ不死川。俺と羽月のイチャイチャ邪魔すんな」
「あれ、いつイチャイチャしてましたっけ?」
「ハッ、言われてんぞォ宇髄」
「うるせ」
不満そうな宇髄先生に口を抑えながら笑って見ていると、不死川先生が私の方に肘を乗せた。
「お前らいつもそんな事やってんのか」
「結構二人で飲み行ってますからねー。楽しいですよ」
「…結構?おまっ…はァ?」
「いやー、宇髄先生お酒強いし私が潰れてもちゃんと送り届けてくれるし迷惑掛けっぱなしで…」
「おい羽月、ストップ」
申し訳ないです、と続けようとしたら信じられないものを見たかのような目で私達を見る不死川先生と目が合った。
宇髄先生は何故か苦笑いを浮かべているし、私は何か余計な事でも言ってしまったのだろうか。
「…宇髄。まさかお前がそんな紳士だとは思わなかったわ」
「お前俺を何だと思ってんだ?」
「歩く18禁だろォ」
「おい」
何やらコソコソと不死川先生と宇髄先生が話しているけどまぁいいやと思って帰りの支度をする。
さっき私が負けたから今日は宇髄先生の奢りだそう。
どうして今回だけ男気になったのかは知らないけど、じゃんけんの前に一度帰って服を着替えてきてほしいと言われていたし先にお暇しようと思った。
「それじゃあ宇髄先生、私着替えに帰りますねー」
「おう、迎え行くとき連絡入れるわ。派手に着飾っておけよ」
「ふふ、分かりました」
未だに不死川先生とじゃれついている宇髄先生二人に頭を下げ先に学校を出た。
派手に着飾って来いと言っていたけれど今日はどこに連れてってくれるのだろうとちょっとワクワクしている。
いつも宇髄先生は美味しい所に連れて行ってくれるから、週一程になっているこの飲み会が楽しみで仕方がない。
正直、宇髄先生が気になってしまっている自分も居たりする。
「宇髄先生いつもそんな事言わないから何だか緊張しちゃうな」
徒歩で十分の所にある自宅に着いてクローゼットを開ける。
数分自分の服とにらめっこをしていると、携帯が震えたのに気付いてポケットから取り出して画面を見ると宇髄先生からメールだった。
「ドレスを着て来い…?」
ドレスだなんて持っていただろうか。
そうなると髪の毛も少しばかりいじった方が…
そんな事を考えているとまたもう一通メールが届いた。
「1時間後に予約してる、か」
それなら化粧も直して髪の毛もいじる時間もある。
私は急いでお風呂に入り珍しくきちんとした化粧をして、前に結婚式の二次会用にと買ったドレスを着る。
(…何これ、恥ずかしい)
全身鏡の前であまりの気合の入れように一人床を叩いて羞恥心に耐えていると携帯が着信を告げた。
時間的に宇髄先生だろうと思い、通話ボタンを押す。
「は、はい!」
『もうそろそろ着くけどドレスアップは済んだか?』
「あの、本当にドレスなんか着てくんですか?」
『おう。俺も今日はスーツだぜ。もう派手派手だ!』
「うぅ、分かりました」
『じゃ、下で待ってるわ』
宇髄先生もスーツだなんて一体どこへ飲みに行くと言うのか。
ヒールを履いて階段を降りていくと下に車が停まっている。
私達が飲みに行くときは大体タクシーで街の中に行く。
ドアに寄り掛かって私を見上げる宇髄先生に思わず目を見開いて足を止めてしまった。
喩えが凄く一般的だけど、宇髄先生からしたら地味な思考だって笑われてしまうかもしれないけど、白のスーツが王子様のようで。
「迎えに来たぜ、お姫様」
「ひぇぇ…思考を読むの辞めてもらえませんか」
「は?なんの事だよ」
目の前まで歩いて私の手をすくい上げた宇髄先生に腰が引けてしまっているととても楽しそうに笑ってくれた。
しかもよく見れば後ろには車は車だけどリムジンじゃないか。
これでどこに行くというのだろうかと手を引かれるまま車内へ乗り込んだ。
「随分と可愛く着飾って来たな」
「う、宇髄先生に着飾って来いと言われたので…」
「俺だけの為にこんなに派手にしてくれるとは嬉しいね」
「眩しい…!眩しいです先生!」
いつもとはまた違う笑みを浮かべる宇髄先生に目を逸らすと大きな手が私の頬を掴む。
「逸らすなよ。今日はこのまま帰すつもりねぇから」
「…っえ!?」
「こんな可愛い女、俺が逃がすとでも?なぁ、羽月?」
「!?」
耳元で低く囁いた宇髄先生に顔が熱くなる。
私だって大人だ。宇髄先生が言わんとしてる事くらい何となく察しはつく。
「俺の嫁に来い」
「……は、はい」
「安心しろ。優しくしてやる」
何かもう色々と飛ばし過ぎな気もするけれど、こんなにカッコいい人にこんな素敵な言葉を言われて拒否できる人は居るのだろうか。
ドキドキする胸に思わず手を当てていれば耳に宇髄先生の唇が触れる。
「好きだ」
「っ、」
「お前も俺が好きだろ?」
有無を言わさない態度の宇髄先生に小さく頷けば満足そうに唇を奪われた。
End
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