「後藤、僕の怪我の治療荒くない?」
「うるせぇ、黙って治療受けてろ」
「冷たいなぁ」
羽月は頬を膨らまし足を治療してくれる俺を見つめた。
こいつは俺とほぼ同期だが才能があり、今では甲の階級を頂いて柱に継ぐ忙しさに奔走している。
鬼殺隊に入った頃は私、って自分の事呼んでたくせに今では僕なんて男のふりをしていて。
女だからと散々言われたからだと本人は言っていたが、俺は強さに性別なんて関係ないと思ってる。
胡蝶姉妹だって女ながらに柱に就任したし、羽月も普通にしてりゃいいのになんて思う。
「ねぇ後藤」
「何だよ」
「ありがとう」
ふにゃりとカステラみてぇに笑った羽月に目を逸らし包帯を巻き終わった足を軽く叩いてやる。
「いたっ!」
「礼なんていらねぇから、あんまり怪我すんなよ」
「うん、ごめん」
何でもかんでも素直に受け取る羽月は嫌いじゃない。
寧ろ心を寄せてる事は自分でも気付いてる。
だから、無理難題押し付ける気はねぇけど出来る限り怪我はしてほしくないと思っていつも厳しくした。
「ほら、乗れよ」
「うん」
「…お前さ、ちゃんと飯食ってんのか?軽すぎじゃね?」
「そうかな?ちゃんと食べてるけど…」
軽々と持ち上がった羽月に声を掛ければ背中から腕が周り、何だか照れくさくなった俺は気をそらそうと会話を振る。
「忙しいからって睡眠も食事も怠るなよな。お前結構無理しがちだし」
「分かってるよ、後藤は心配症だね」
「何も出来ない俺に出来ることはそれくらいなもんでね」
「そんなこと無いよ。いつも感謝してる」
背中から伝わる羽月が笑った振動に卑屈な言葉で返せば耳元で優しく控えめな声が鼓膜を刺激する。
こうして俺達の様な隠に丁寧に接してくれる隊士は極僅かだ。
それを不満と思った事もあんまり無いし、才能が無い者として言い返す事は出来ないと思っているのにやっぱりこうして言葉にされると何だかんだ嬉しい。
「僕達が鬼を狩る事だけに集中出来るのは、後藤を始めとした隠の人達が人払いや後処理をしてくれてるからなんだよ」
「へぇへぇ、ありがとうございます」
「もう、後藤は素直じゃないね」
「お前が素直過ぎんの」
ぶっちゃけ大声出して叫びたいくらいに嬉しいけど、そんな事したら羽月に引かれるし頭おかしい奴だと思われるからしない。
「僕の良いところはそこくらいだから」
「はぁ?」
「えっ、怒るところ?」
「お前なぁ…」
振り返って羽月を見れば驚いた顔してるし、小さくため息をついた俺は水を補給する為に安全な場所へこいつを降ろして水筒を取り出す。
「あ、くれるの?」
「丁度水もあるし補給してくから飲んでくれ」
「うん、いただきます」
少しだけぬるくなった水筒を文句も言わず飲み干す整った顔を眺めながら、羽月の良いところを考える。
考えれば考える程ポンポン出てきちまう俺は惚れた弱みか全てが可愛らしくて困ってきた。
本当に俺はコイツが好きなんだ、と思った瞬間水筒から口を離した羽月がお天道様もびっくりな笑顔で笑いかけて来る。
「ありがとう、美味しかった!」
「…なぁ、お前さ」
「ん?」
「顔は可愛いわ、剣の腕はすげぇわ、性格はいいわで良いところだらけなの気付けよ。意味分かんねぇくらい俺にとっていい女過ぎて困ってんだけど」
「へっ!?」
「逆に惚れない男とかいんのか?良いところ探してたら好き過ぎて雰囲気も何もない場所で告白紛いな事言っちまったじゃねぇか」
自分でも驚く程すらすらと告白した俺は羽月の顔が見れなくなって思わず差し出される水筒を引ったくってしまう。
呆けたままの羽月を頬杖しながら見つめていると、段々と顔を赤くして俯く姿にまた可愛いと心の中で呟いた。
「そ、それ本当?」
「おー、ほんと」
「あの、その…僕も、後藤の事好き、だよ」
じっと見つめる俺を俯きがちにちらちらと見る羽月に今度はこっちが目を見開いた。
だけど相手は羽月だ。
もしかしたら友人としてかもしれないと、思わず抱きしめそうになった手を抑える。
「あのな、一応言っとくけど」
「ちゃんと、それくらい分かってるよ!ぼく…じゃなくて、私ね、男の人として後藤の事好きなの」
「…何なのもう、反則じゃねぇ?」
俺の袖を小さく握った羽月に天を仰ぐ。
何で今まで1人称が僕だったのに今になって私になるんだよ。
可愛すぎて死にそうだわ。
ちょこんと袖を握る手に触れながら羽月に視線を戻すと、両思いだったんだね。と嬉しそうに頬を緩めた顔に近付いて柔らかい唇を奪う。
「なぁ、やっぱ可愛いとこ見せんの俺だけにしてくれる?」
「ご、後藤っ…」
「こんなとこ、他の男には見せたくねぇわ」
こんなに愛らしい女の顔、他の誰にも見せたくねぇ。
剣の腕は羽月より弱いけど、俺は俺なりに守っていきたいって思う。
あ、と口を開いてもう一度羽月の唇を奪おうと思えば、半端ない衝撃が俺を弾き飛ばした。
「…は?」
「後藤のすけべ!!だっ…駄目だよ、こんな所で!」
「いや、あの…別にスケベな事しようとした訳じゃ…」
結構ふっ飛ばされた俺は痛む肩を擦りながら苦笑いを浮かべる。
流石は甲の階級を貰ってるだけあるわ。
俺も才能が無いなりに少しくらい筋力を向上させる修行をしようかなと思った。
自分の彼女より力弱い彼氏もかっこつかねぇしな。
「羽月ー」
「な、なに?」
「好きだよ」
「ひゃぁ…!」
「ははっ、かーわい」
End.
初、後藤さん夢!!
彼は告白する時無駄に話しそう。
下の名前を教えてほしいぃぃ…!
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