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水柱継子、永恋羽月。
彼女は強く美しい。
そしてとても儚げだった。

花に例えるのなら睡蓮だろうか。
水に浮かぶ美しい花。


「小芭内」

「羽月」

「久し振りね」


鬼殺隊という常に死と隣り合わせの血生臭い組織とは無縁のような振る舞い。

踊るような、舞うような動きで鬼の頸を斬る姿はさながら水の精だと比喩されていた。

そんな羽月と俺は趣味である飴細工が作られる過程を共に楽しむ仲であり、その後は鍛錬をして技を磨き合う仲間だ。


「今日はどこへ行こうかしら」

「水柱はいいのか?」

「えぇ!小芭内の元へ行くと言ったら髪を結って下さったの。どうかな?」


普段水柱と共に行動している羽月に気を使えば嬉しそうに首を縦に振りながら、珍しく纏めてある髪を指差した。

刀を握れば美しく気高き羽月も、こうして髪型一つで気分が上がる姿は町娘と何ら変わりはない。


「…似合っているんじゃないか?」

「本当?ありがとう、嬉しいわ」

「は、早く行くぞ。今日は少し遠い場所に行く」

「分かった!」


待ち合わせ場所から少し遠いが、とても繊細で美しい飴細工の職人がいる事を噂で聞いた俺達はそこへ向かうべく足を動かした。

道中任務であった事や弟分のように可愛がるあの男の事やらを、他の者であれば不快な事も羽月ならば許せてしまう。


「あ、そうだ」

「どうした」

「来週から師範と一緒に東北の方へ行く事になったの」

「東北か。ならば暫くはこっちへ顔を出せそうにないな」

「ええ、寂しいけれど小芭内にお土産買ってくるわね」

「ほう、ならばどんな物か楽しみにしていようか」

「うん!」


長い期間会えないのはよくある事だ。
少しばかりつまらない日々が続くだけ。

だが水柱と共に居るのなら余程でない限り羽月が危険に晒されることはないだろう。
そう思いながら、今度は景色を見て美しいと笑う彼女の横顔を眺めた。


「これは」

「まぁ」

「素晴らしい出来だな」

「本当!」


目的の飴細工職人の元へ辿り着いた俺達は目の前の光景に感嘆の息を吐いた。
蝶や、金魚、花。彩られ光に反射する繊細な造りの飴細工を眺めながら語らう。


「おや、新婚さんかな?」

「…な、」

「まぁ、そう見えますか?」

「あぁ!飴細工が好きなのかい?」

「えぇ、とても。貴方の作った素敵な飴細工につい見惚れてしまいました」


商売の為の世辞だとは思うが、普通に店主とやり取りする羽月に、俺はただただ顔を赤らめて楽しそうな顔を見つめてしまう。

俺などと夫婦に間違われて嫌ではないのか、それとも何も気にしていないのかその様子からでは何も分からない。


「あの、お願いがあるのですが」

「おう、なんだい?」

「宜しければ私達二人に何か目の前で作って頂くことは出来ますか?勿論その分のお代はお支払しますから」

「おっ、いいよいいよ!可愛らしい新婚さんの為だ、任せとけ!」

「まぁ、腕もさる事ながら心までとても素敵な方ですね」

「えっ、そうかい?嬉しいね!」


俺が呆けている内にどんどんと話が進んでいってしまう。
俺達二人に作ってくれるという店主は羽月に煽てられ後ろから飴を持ってきてくれた。


「貴方の腕前を見れるのはとても光栄だが迷惑ではないか?」

「良いってことよ!」

「楽しみね、小芭内」

「…そうだな」


何を作ってくれるのだろうかとわくわくしている羽月に目を細めて頷けば、更に深くなった笑みで笑い返してくれる。

幸せとはこういう事を言うのだろうか。
新婚どころか恋仲でもない俺達は、仲間という枠を超えていない。

けれど横を見れば少ない自分の休みを殆ど俺と過ごし、他の隊士や水柱とは比べ物にならない程近い距離にいつも居てくれる。

パチンと飴を切る音と、その巧みな技術を見ながら俺達に作ってもらった物が形を成して行くのをひたすらに見届けた。


「よし、出来た!ほら、お二人さん」

「素敵な白鳥ですね!」

「そうだ。白鳥はな、縁起のいい動物だ。翼を持ち大空を自由に飛ぶことが出来ることから、天と通じている動物として昔から言い伝えがあるらしい」

「白鳥にそんな言い伝えがあるのか」


店主から貰ったのは互いに向き合うよう作られた白鳥だった。
どうやらこの店主は世辞でもなく俺達を夫婦だと思っているらしい。

ありがたい事ではあるがどうも気恥ずかしい俺はつい羽月の反応を伺ってしまう。


「大空を自由に飛び回り、天と通じる…なんて素敵なんでしょう。翼があれば小芭内と離れていたってすぐに会いに行けるわね」

「…なっ、」

「ありがとうございます!とても素敵な思い出になりました!」

「おう、良いってことよ!お二人とも仲良くやるんだぞ」

「ええ、勿論!ね、小芭内」


店主に頬を赤くしながら興奮した様子の羽月に手を取られ微笑まれては頷く事しか出来ない。

愛らしいその姿を脳内に刻みながら一つ頭を下げ、店主へ向かって礼を述べた。







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