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月明かりに照らされる羽月の髪を撫でる。

愛おしい。
ただそれだけの感情が心を占めて。

何があっても、どんな未来が待っていようとも、それでも俺を信じ見守ってくれていた存在。


ずっと側に居てくれた羽月。


「…俺は、お前に何か与える事が出来ただろうか」


ぽつりと呟く声に反応は無い。
当たり前だ。

羽月は寝ているのだから。


「好きだ」


笑った笑顔が。


「大好きだ」


立ち止まる俺に向けられる優しい言葉が。


「きっと、俺は羽月に出会う為に生まれてきた」


伏せた睫毛が影を落とす寝顔を見つめて、まるで夢でも見ていたかのような幸せな日々の記憶を思い起こす。

確かに辛い事はたくさんあった。

大切な人や仲間をたくさん失った。

心が折れて後ろ向きになりながらも必死に生きてきた。

誰かに託された未来を、俺が背負うのは当たり前だと思って。


俺は、残された者として当たり前の事をしたと思っているし、その事に間違いだとか、後悔しただとか思った事など一度たりともない。


だがそんな中で出会えた羽月に、初めて自分の中にあった愛を知った。

手放したくない、共に居たい。
そんな存在が羽月だった。


鬼殺隊士としてではなく。
柱としてではなく。
友としてでもなく。

俺個人として、羽月を幸せにしたい。
そう思った。

いつ死ぬか分からない俺が何を言うのだと、何度もそう思ったさ。

諦めなければ、俺には誰かを幸せにするなど無理だ。
自分に言い聞かせ距離を置いたこともあった。

そんな風に思っていても、どんなに自分を抑えようとしても、羽月だけは諦められなかった。


「羽月」


こんな我儘な男ですまない。


「羽月…」


悲しませてばかりの男ですまない。


「………羽月」


お前がくれた幸福を、貰うばかりの男ですまない。


ぽつぽつと振り始める雨の音に俺の声が溶けていく。

投げ出された手に自分の指先を絡めて、弱々しく音を出す自分の声に眉を寄せた。


「……泣かないで」


眠っていると思っていた羽月の声が聞こえて顔を上げると、いつもより細く開かれた瞳が俺を捉えている。


「すまない」

「謝らないで。何も悪い事なんてしてないじゃない」

「…羽月」


ゆっくりと起き上がった羽月は両腕で俺の身体を包み込む。

力も身体も俺の方が大きいのに、それでも全てで包み込んでくれる羽月の優しさはいつも荒んだ気持ちを癒やしてくれた。

目を閉じて羽月を感じる。

愛おしすぎて、心臓が痛いくらいに。


「眠るの?」

「……あぁ」

「…そう。分かったよ」


力が少しずつ抜けていって、絡めた指先が外れそうになっても羽月は離さずに力を強めた。

それが嬉しくて、安心出来て、自然と心が軽くなる。


「愛してるよ。義勇」


あぁ、俺も愛してる。


「貴方に出逢えて、私凄く幸せ」


俺もだ。


「大丈夫。私は強いもの」


本当か?
泣いたりしないか?


「人だから、泣くときだってあるけど…でもちゃんといつかは立ち直ってみせるよ」


泣く姿は、見たくないな。


「私を幸せにしてくれてありがとう」


そんなの、俺の台詞だ。


「側に居てくれて、ありが…とう…」


お前が側に居てくれたから、俺は頑張れたよ。


「愛してる」


俺も愛してる。


「ゆっくり、休んでね」


ありがとう。


「……羽月…あり、がとう……」

「っ、うん…!」


愛してる。
君を、愛してる。

どうか、これからの人生が羽月にとって幸せであるように。


温かい雫と柔らかい感触が頬に触れて、その優しさに俺は笑った。









羽月へ。

これを読んでいると言う事は、俺はもうこの世に居ないのだろう。

すまない。
置いていってしまって。

泣いていないだろうか。
もし泣いているのなら、君のその涙を拭ってくれる者はいるだろうか。

羽月は強い。それでも、人とは甘える事も大事なのだと俺に教えてくれたのは君だ。
だから、辛い時にはちゃんと周りの者に甘えて欲しい。
炭治郎や禰豆子はしっかりしているから、きっと君を励ましてくれる。
涙を拭ってくれる。

本来ならば俺の役目であり、俺がしてやりたいが、その原因が自分にあるという事は分かっているつもりだ。

ありがとう。
残り僅かしかない俺の気持ちを受け取ってくれて。

ありがとう。
側に居てくれて。

ありがとう。
生まれてきてくれて。

貴女の全てに感謝を。そして、これからの幸せを願う。

愛してる。
ただただ羽月を、羽月だけを愛してる。



冨岡義勇。





end.




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