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「今日も終電間に合わなかった…」


死にそうな顔の私が街のショーウインドーに映った。
適当にホテルを取って仮眠しようかと大きな交差点を渡っている時、たまたま街頭に見えた例のアニメのポスターが目に入り立ち止まる。


「カッコイイ。くぅー!!活力!!生きる源!ってやばいやばい、信号渡ってる途中だっ…た」


思わず立ち止まってしまった自分に首を左右に振って再び歩き出そうとした私の視界は眩しすぎる光に包まれる。

おかしいな、ここは歩行者が渡る時全て車側の信号が赤になるはずなのに。

まだまだ見たいアニメとか、やりたい新作のゲームとか、社畜の為の通販サイトの買い物とかこれから届く予定だったのになぁ。

そんなことを思って私の体は宙に放り出された。



はず、なのに。


「あらあらまぁまぁ。年若い子がこんな所で寝ていたら怖い鬼に食べられてしまいますよー?」


素敵な声に起こされ私は目を覚ます。

助かったのかななんて思いながら横たわっていた体を起こすと辺りは都会では無く、田畑が続く暗い夜の道だった。


「もしもーし?」

「…こ、」

「はい」

「ここはどこ!?私は誰!?えぇぇ!!!」


声量だけは定評のある私。
目の前に現れた女神の様な女性に驚きで叫べば笑顔で耳を塞がれた。


「ふふふ、元気な人ですね」

「ななななな」

「どうやら体の心配も無用の様ですし、近くの町まで送っていきましょうか」

「しのぶさんっっ!!」

「…あら、お知り合いでしたか?」


どうして私の目の前に胡蝶しのぶが居るんだ。
現実逃避しがちなOLではあるけれどまさかこんな現実があるなんて。

いや、もしかしたら死ぬ直前に私は夢を見ているのかもしれない。

最後の最後までオタクが滲み出るとか私さすが過ぎて鳥肌が凄い。


「すみません、あなたのお名前は?」

「永恋羽月です!東京出身、社畜女です!趣味は妄想、よろしくお願いしまぁっす!!」


最期の夢ならば精々覚めるまで楽しんでやろうと困ったような表情を浮かべたしのぶさんに土下座する勢いで自己紹介を述べた。
面接だったら即不採用だろう。
知ってる。


「……とても斬新な自己紹介ですが、すみません。あなたの様な非常に個性的な方は忘れない筈なのにどうも思い出せないようで…どこでお会いしましたか?」

「いえ、私が一方的に知っていただけですのでお気になさらず!しがない社畜ですので!」

「社畜…?」

「可愛い、首をちょこっと傾げたしのぶさんが可愛い」


箱推ししている漫画なだけあってやはりしのぶ様はとても可愛らしい。
時折針のようにチクッと刺す本音がとても気持ちいい。

高鳴る胸を抑えながら顔をデレっとさせると、不意に視界が赤く染まった。

え、時間切れ?


「…これは」

「あれ、もう終わり…まじ、か…」

「羽月さん!しっかりして下さい!!」


急にボタボタと血を垂れ流し始めた私に目を見開いたしのぶさんが体を支えてくれる。
いい香りがしてまた更にキュンとした。

夢の中で、しのぶさんに抱かれて死ねるなんて幸せすぎるわ自分。

どうせあっちには、私を看取ってくれる身内は居ないから。


「…すいません…短い、時間でも…幸せ、でした」

「何を言って…」

「オタク…ばん、ざい…」


あぁ、でもできる事ならあの人と会いたかったなぁ…。


「義勇、さん」


霞む視界にぼんやりと彼の姿を思いながら目を閉じた。


「…っ、羽月さん!どこにも傷はありませんよ!」

「うっそ!?」

「これは間違いなく血ではありますが、どこから出たのか分かりません」

「あわわわ、恥ずかし過ぎて無理なんですけど!?もういっそ死にたかったわ!」


両手で顔を覆い地面に惨めったらしく蹲った。
辞めてよ冨岡さんの名前彼女ばりに呟いちゃったじゃん。
頼むからしのぶさんに聞かれていませんように。


「で?冨岡さんとはどういうご関係なんです?」

「あっ、ですよねー!」


聞いてないわけがないんですよ。
あの胡蝶しのぶ様が。

なんの血か分からない液体をハンカチで拭きながら極上の笑みを浮かべたしのぶさんに口の端が引き攣った。




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