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「………」


洗濯物を畳みながら、私は空を見上げて一つ気合を入れる為に顔をパシンと叩く。

只今私は蛇柱様の雑用として雇われている隠だ。

身の回りのお世話が主な私の仕事は色々な隊士の方々の屋敷や部屋にお邪魔する。


「でも会えるか分からないしなぁ」


はーっとため息を盛大にこぼしながら箪笥へ服をしまう。
私は今日この日蛇柱様、いや。伊黒さんに告白しようと思っている。


蟲柱様と同じくらいの身長の私は、腕前すらも隊士に向いておらず泣く泣く隠になった訳だけれどやはり悔しいものは悔しくて少し捻くれていた。

初めて出会ったのは勤務初日。

初日だからと言うことで、物の少ない隊士の方々のお宅へお邪魔して洗濯物などの片付けをすればいいと配属された先が蛇柱様のお屋敷だった。


その際仕事自体は楽だから、気難しい人だから気を付けろと言われていたのに私ってば盛大にやらかしたのだ。

蛇柱様の前で思いっきり湯を溢し、それに滑って転び私自身が水浸しになってしまった。

怒られる、そう思った私は無言で近寄ってきた蛇柱様に強く目を瞑りお叱りを受けようとした時。


『大事ないか』


解けた髪を退けながら困った様に眉を下げた蛇柱様がふと笑った。

きっと子どもなのだと思われたのかも知れないけれど、その小さな笑みに捻くれてた心が解けていくのを感じた。


以来私は蛇柱様と会うと少しずつ話すようになって、年も近い事が分かってもっと会話が弾むようになった。

好きで、大好きでたまらない。


こんな私が柱である彼に恋するなんて烏滸がましいと分かっているけれど、どうしても止められなくて。


「嫌われちゃうかな」


蛇柱様は他人にも厳しいけれど、誰より自分に厳しい方だ。

鬼舞辻無惨という敵を倒す為に代々使命を背負ってきた鬼殺隊士が恋愛なんて、と言われてしまうかもしれない。


「蛇柱様」

「何だ」

「わぁっ!?」


湯を沸かそうとお風呂場を洗っている最中ついつい溢してしまえば独り言だったはずの呟きに返事が返ってきた。


「っうわ、」

「っ、バカ…!」


慌て過ぎて石鹸を踏んでそのまま視界が反転する。
流す為に置いてあった桶も蹴っ飛ばし、またかと思いながらくるであろう衝撃に目を閉じた。

けれど待てども待てどもびしゃびしゃと水が掛かるくらいの感覚しか来なくて、恐る恐る目を開けてみれば覆い被さるように私を庇う蛇柱様の顔が間近にある。


「…あ、あぁ…ごめん、なさ」

「何時ぞやの光景を思い出すな」

「うっ…」

「怪我はないか」

「痛い所は、まったく…そ、そんな事より蛇柱様がびしょ濡れに…なんて事を」


しとしとと濡れた蛇柱様の髪に手を伸ばす。


「触れるな」

「っ…!」


私の両脇に置いてあった手が拳を作り、拒絶の言葉が放たれる。

こんな事になってしまって怒られるのは当然の事だと分かっているのに、初めて言われた強い言葉に心臓が鼓動を早めた。
悪い意味で。


「申し訳、ありません」

「…これ以上近寄るな」

「……そう、ですよね。こんな使えない隠なんて、」

「そうじゃない」

「え…」


更に俯いた蛇柱様に目を逸らそうとすれば、予想と違った答えにもう一度顔を上げるとそこには眉を顰めた左右非対称の瞳と視線が絡み合う。


「羽月」

「は、はい!」

「そんな目で見るな。期待してしまう」


蛇柱様の硬い手の平が頬を這い、くっついていた髪を払う。

期待とは何だろうか。
考えれば考える程心臓は忙しなく動くし、少しずつ近寄ってくる瞳から目が反らせない。


「ん、」


空いている手が口布をずらしたのを最後に私は目を閉じて両腕を蛇柱様の首に回す。

少し冷たい私達の唇が重なり、何度も音を立てて啄まれる。


段々息苦しくなってくるのに、蛇柱様に口付けてもらえてるという事実が嬉しくて答えたくなってしまう。

気の迷いだっていい。
こんなちんちくりんな私を一時でも女として見てくれるのなら、さっき驚いて転んだ事も失敗じゃなかったと思える。

浅はかな女だと笑われてしまうだろうか。


「ん、っは、」

「…これ以上煽るな」

「や…蛇柱様…もっ、と…」


はしたない事だと分かりつつも欲望のままもっとと強請れば口内に長い舌が入り込んで私のと絡まる。

下腹部がキュンとする感覚に変な声が出てしまいながら必死で口付けに答えていると、いよいよ視界が霞んできた。


流石呼吸を使いこなす柱。

ごめんなさい、私はここまでのようです。


真っ白になる直前蛇柱様の肩を叩きながら、結局私は気を失った。









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