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そうして毎日を過ごしていたある日、俺は目を覚した羽月に1つ提案をした。

共に買い物に行かないかという誘いだ。


「お買い物…連れて行ってくれるの?」

「あぁ、たまにはと思ってな」

「嬉しい!行きたい!」


羽月はいつも同じ服を着ていた。
ただの木偶人形から羽月を形にした日、服や下着はその時に形成されるのだと言う。

洗濯する時には俺の服を着せてやったが、下着もあった事に驚いた。
毎度毎度洗濯する度に俺の服を、その下着もない状態で着ていると言うのも何だか理性的にキツイものがあるから新しく買い与えようと考えたのだ。


「ちょ、ちょっと待っててね!靴…えと、」

「靴は用意しておいた。その、気持ち悪いかも知れないが足のサイズを測らせて貰って用意はしておいた」

「本当!?気持ち悪くないよ、嬉しい!ありがとう」


あぁこの笑顔だ、と微笑んだ羽月に気持ちが満たされた。
自分でも気付かないまま羽月の頬に手を這わせて滑らかな皮膚を堪能すれば、人間と変わらない暖かな体温を感じる。


「あの、小芭内…?」

「嫌だったか」

「い、嫌じゃないよ。嬉しい…小芭内に触れられるの、好き」

「そうか」


こう話してきて羽月の人格が何となく理解できて来た。
明るく朗らかで、照れ屋で。
俺からも羽月からもお互い触れ合うと言う事は殆ど無いがたまに触れ合う温もりが幸せと感じ始めている自分が居る。

羽月と居る時間はとても楽しい。


「行こうか」

「うん!」


靴を玄関に置いて慎重に履いた羽月へ手を伸ばすと温もりが重ねられた。
それは車に乗っても続いて、俺達は一度も互いの手を離すことなく初めてのデートの時間を過ごす。


「楽しかったか」

「うん、とっても!でも良かったのかな、こんなに服買ってもらって…」

「良くなかったら買わないさ」


帰りの車、握る手に少しだけ力を込めれば羽月が此方に身体を乗り出してくる。
赤信号だが運転中だと言おうとしたら鼻先にキスをされた。

一拍置いて離れた羽月の顔は真っ赤になっている。


「…な、」

「小芭内、大好き」


何をするんだと言おうとした俺に被せるようにして告げられた言葉。
初めて言われたその言葉に動きを止めていたが、後ろの車にクラクションを鳴らされ急いで前を向いた。

鼓動が煩い。
ただ暇潰しにと始めた一時間だけの羽月との生活。

やはり一時間だけでは物足りないという欲が完全に面を上げた。


車を降りて無言で手を引く俺に戸惑いながらも小走りでついてくる羽月を玄関に入った瞬間壁に押し付け口付ける。

一緒に過ごしたい。
舌をねじ込み深く羽月の口内を味わっていれば胸を叩かれ、唇を離すと銀色の糸がお互いを繋いだ。

息切れとは別のもので頬を高調させた羽月が涙目でこちらを見上げてくる。


「…ど、どうして口に」

「足りない」

「でも、」

「まだ一緒に居たいと思ったんだ。羽月が、好きだから」


こんな俺の残された寿命などで共に居られる時間が長くなると言うのなら何だって構わない。
羽月と居ない時間は無駄に過ぎていくだけで何の意味もなさないんだ。

今のキスでどれ程の時間が延長されたかは分からないが。


「今回、限りですからね」

「約束は出来ないな」

「……」


靴を脱いで羽月の手を引いて寝室に来る。
約束できないという言葉に一瞬眉を寄せたのは見えていた。


「嫌なら今言ってくれ」

「小芭内だから嫌じゃない。嫌じゃないけど、もうキスはしちゃ駄目だよ」


行為中にキスをしたら駄目とは随分無理難題を押し付けてくるものだ。
だが熱を生んだ瞳は俺を拒絶している訳ではないと言う事だけは分かる。

優しく押し倒しその薄い唇にしない代わりに首筋や額、鼻先に口付ければ嬉しそうに笑ってくれた。

何も着ていない羽月を抱き締めながら事後の僅かな時間を過ごす。


「後どれくらい動けるんだ」

「多分、後1時間位は」

「なら珈琲でも飲んで過ごそう」

「うん」


服を拾い上げ、先程買ってきたばかりのルームウェアを羽月に渡せば礼を言って受け取ったのを見てコーヒーメーカーのスイッチを入れに行く。
こんなに心も体も満たされたのはいつぶりだろうか。

羽月が居れば行為など無くとも満たされはしている。
だが人間とは欲深いものだ。
一度触れてしまえばまた触れたいと思ってしまう。

羽月は俺の寿命が減らない様にいつだって気を使ってくれているのも知っている。

あの眉を寄せた仕草は、俺の心配をしてこその表情だったのだろう。


「すまない」

「え?」


俺を想ってくれる羽月の気持ちを蔑ろにしてしまったという自覚はあった。
けれど、俺だってそれ程に彼女との時間を望んでいる。
だからせめて、何がとは言わないが謝った。

そんな俺を羽月は首を横に振りながら寄り添ってくれる。

どうして、羽月は人形なのだろうか。
そう思いながら眠る様に動かなくなった彼女の髪を優しく撫でた。



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