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一目惚れだった。

流れる水のような太刀筋。
私はこの人に斬られたい。

鬼となったこの身を捧げたい。
不思議な羽織を着たあの人は、目が眩む程美しかった。


「頼もう!!!」

「帰れ」

「お願いです!私の頸飛ばして!」

「…お前は何なんだ」


それ以来私はこの人間、冨岡義勇と言う男にくっつきまわった。
私は鬼で義勇は鬼殺隊。

斬らない理由など無いのだ。

無惨の支配とか特に無かったし理性を失わずに居られたから、私は動物の血を飲んで過ごしたけれど。
人とか無理、食べられない。


「何故俺の所ばかりに来る。他の水の呼吸を使う隊士に斬って貰えばいい」

「え、絶対やだわ。私より弱いし何より冨岡の太刀筋の美しさには到底敵わないもんね」

「………」

「いいじゃん!引かないでよ!」


お願いだよ、と袖を引っ張れば真顔でこっちを見てくるけれど何となくドン引きしている感じは物凄く分かる。

折角無惨の支配下に置かれなかったし、十分人生は楽しめたし惚れた男に斬られたならば私はそれで万々歳なのに。


「何故俺に固執する」

「好きだから」

「何を言ってるんだお前は」

「いいじゃん、独りぼっちで寂しい人生過ごしてきたし惚れた男に看取られる幸せくらい貰ったって」


あっけらかんと言いのけた私に冨岡は眉を僅かに寄せこちらを見ている。
あ、独りぼっちって単語地雷だったかも。
冨岡いつも一人だし。


「ごめんごめん、別に冨岡の事言った訳じゃ」

「俺は嫌われてない」

「あっ、無自覚!」

「とにかく帰れ」

「何でだよう!」


そろそろ日も登るし、確かに帰らなきゃいけない時間だけれどまた独りぼっちの昼間を過ごさなくてはいけない事を考えると寂しさがあふれ出しそうになる。

何十年、私は一人殺される事や陽の光に怯え過ごして来ただろうか。

もういいんだ。
でもだからと言って死に方を選ばない程覚悟は出来ていない。


「…もう一人はイヤだ」

「?」

「かと言って知らない奴にも殺されたくない。日を浴びて苦しんで死にたくない。頼むよ、冨岡」


こんな心の弱い鬼のお願いくらい聞いてくれたっていいじゃないか。
ここに来るのだって、いつ冨岡ではない柱に会うか分からなくて怖いんだ。

涙を滲ませた私にぎょっと目を剥いた冨岡が忙しなく視線を彷徨わせている。


「いいじゃん、誰一人喰わないで頑張ってきたんだからご褒美くらいくれてもさ。善良な鬼だよ、私」

「おい」

「それとも何?人を喰えば冨岡は私を殺してくれるの?人食べるとか無理過ぎてゲロ吐くよ?いいの?」

「話を聞け」

「っ、ごめんね冨岡。こんな事言われても困るよね」


枷が外れてしまった私は流れ落ちる涙を必死に拭いながら冨岡に背を向ける。
どんなに言ったって私が人を喰う事はないし、きっと知らない誰かに殺されるのを待つしかないのだ。

それがずっと怖かった。
けれど、もうここには来ない。

冨岡の困った顔が見たい訳じゃない。


「もう日が昇るし帰るね、とみお…か」

「ここに居ろ」

「え、いや…私陽射しは」

「こっちへ来い」


背中を向けた私の手を強く引っ張る冨岡に体制を崩しながら、初めて屋敷に足を踏み入れた。
急いで履いていたものを脱ぎ、連れられるまま冨岡の後をついていく。

もしかしてやっと頸を斬ってくれる気分になったのだろうか。
今はもう遅いから明日って事?
濡れていた瞳はいつの間にか渇き、日の当たらなそうな奥の部屋の襖が開かれる。


「冨岡?頸を斬ってくれる気になったの?」

「違う」

「じゃあ、どうして」

「死にたいのは本心か」


何の脈絡もない会話に戸惑いながら真剣な眼差しを向ける冨岡に首を傾げる。
冗談を言おうものならこれから全力で無視されそうだし、暫く時間を貰いながら考えを纏めるけれどやはりこのまま誰とも知れぬ奴に斬られるならば冨岡がいいと思う。

そこに恐怖は無いし、寧ろ幸福だと考えている。


「私は冨岡に頸を刎ねてもらえるなら幸せだよ」

「質問の答えになっていない」

「…あっ、そうか!うん、死にたい!冨岡に最期を看取ってほしい!」

「……お前のような鬼を、俺は知っている」


私の答えに結局冨岡も返さない事に突っ込みかけたけれど、その言葉を理解した時思考が停止した。
私のような鬼とはどんな鬼なのか。

阿呆だと言う事だろうか。


「ごめん、よく分からないよ」

「人を喰わない鬼を知っている」

「え、嘘!凄い!」

「お前と違って煩くはないが」

「それは元の性格によるのでは…」


しかし私と同じ様な鬼が居るとは驚きだ。
人を喰わずに生きてきたのならば、やはり同じ様に動物の血を餌としてきたのだろうか。

段々と興味が湧いてきた私は目の前に正座する冨岡の話を前のめりになりながら聞いた。




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