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「…ここが、兄さん達が居る鬼殺隊」


新品の隊服に身を包み、最終選別後己の選んだ玉鋼で作られた日輪刀を腰に差した羽月は二人が居るという屋敷に来ていた。

手紙のやり取りはしていたが、忙しい二人に会うことはなかなか出来ずに日が経つ。
緊張と照れ臭さが混じった表情を浮かべながら屋敷の門を叩く。


「羽月!おい、義勇!」

「来たか」

「兄さん…」


3年程会わなかった二人は身体も成長し、面影は残るものの立派な男性になっていた。
涙ぐむ羽月に変わらぬ笑顔を向けた二人に無言で走り出し飛び付く。

それを二人で抱き留め、大きくなった掌が頭を撫でる。


「会いたかった…!」

「頑張ったな」

「俺達もずっと会いたかったぞ」


ぼろぼろと涙を零す羽月の身体を軽々と持ち上げた錆兎は目を細めた。
それを少し羨ましげに見つめる義勇も薄く微笑んでいる。


「随分と綺麗になったな、羽月」

「兄さん達ももっとかっこよくなったね!」

「…ふっ」

「ははっ!どうやら中身は変わってないらしい!」


花が咲いたように笑った羽月に一瞬驚いた顔をした二人だが、すぐに笑顔を浮かべた。
幼い頃にやり取りしたそのままを数年が経過した後でもしている自分達が懐かしく嬉しかった。


「む!私だって大人になったもん!」

「そうかそうか」

「錆兎、俺も羽月を抱っこしたい」

「もー!錆兎兄さんも義勇兄さんも子供扱いして!」


未だに持ち上げられたままの羽月に手を伸ばす義勇へ渡した錆兎はジタバタ手足を動かすその姿を瞳に映す。
幼く柔らかかった頬はあいも変わらず桃色だが輪郭はスッキリとしていて、身体も凹凸が出てきた。

文句を言いながらも義勇に回される羽月の下半身に目が行き錆兎は慌て始める。


「何でそんな短いんだ!?」

「え?」

「鬼殺隊の隊服はズボンの筈だろう。何故羽月はそんな、」

「これ、スカートって言うんだって。女の子は皆こうじゃないの?」

「……アイツの仕業だな」


半目になった義勇がポツリと呟けば錆兎の眉が思いっきり寄り米神には血管が浮き出ている。


「あの下衆野郎、今すぐ叩き潰してくる」

「えっ、えっ!?錆兎兄さんどうしちゃったの?」

「気にするな。それはそうと羽月、それは」

「あ、気付いた?兄さん達とお揃いなの!」


厄除の面を腰につけていた羽月は地面に降ろされると嬉しそうにそれを見せつける。

可愛らしい紋を付けようとしてくれた鱗滝に二人と揃いのものがいいと初めて我儘を言った。


「これをつけて最終選別に行ったんだよ。兄さん達が側に居るみたいで頑張れたの」


最終選別を終えた後、羽月は少なからず他の者達よりも傷を負っていた。
玉鋼を選んだ後倒れた事は秘密にしておいて欲しいと鱗滝に頼んでいたからそれを二人は知らない。

痛みで自分の日輪刀を手放しそうになった時、面を見れば錆兎や義勇を思い出し何とか堪えた。


「ねぇ兄さん。ちゃんと皆の前では敬語も使うし敬称も付けるから、三人の時は兄さんって呼んでいい?」


面を大切に抱いた羽月が柔らかく微笑めば刀を持ち出し屋敷を飛び出そうとしていた錆兎も、目の前でその笑顔を見た義勇も目を見開き頬を染めた。


「だ、駄目かなぁ…」

「……錆兎」

「なんだ義勇」

「お互い抜け駆けは無しだな」

「勿論だ。男ならば正々堂々勝負しよう」


問い掛けに答えず二人して目を覆う姿を不安げに見つめていると、門の側に立っていたはずの錆兎が羽月の肩を叩く。


「本当ならば羽月に敬語なんて使ってほしくは無いが、俺達を考えて言ってくれるのならそうする事にしよう」

「本当!?じゃあ他の人が居る前は錆兎さんに義勇さんだね!」

「…新鮮だな」

「うん、ちょっと照れるよね」


満更でもなさそうな義勇に頬を掻いた羽月が眉を下げる。
するとそのまま自分の隊服の裾を握った羽月が視線を反らしながらそれとね、と続けた。


「大きくなった兄さん達が凄くカッコよすぎて、ちょっと緊張してる。さっきは久し振りに会えて嬉しくて飛びついちゃったけど…」


ぎゅ、と強くスカートを握り締めた羽月が頬を染めながら聞き取れるか聞き取れないか位の声量で言うと勿論それを聞き逃す筈のない二人が地面に崩れ落ちた。


「兄さん!?」

「俺達も羽月が想像以上に大人になってて驚いてるさ…」

「反則だ」

「えっ、えっ?」


戸惑う羽月に崩れ落ちたまま目を合わせた錆兎と義勇は目を光らせた。


「これはお互い譲れない戦いになりそうだな、義勇」

「悪いがこればかりは錆兎に譲れん」

「兄さん?え、どうしたの?」


その後水柱になった二人が一人の女性を巡って今日も火花を散らしている姿が鬼殺隊での当たり前の光景になった。


「羽月ちゃんも大変だな」

「あ、村田さん!」

「おい村田。羽月に必要以上に近寄るな」

「まさかお前も…」

「お、おい!俺を巻き込むなよ!」

「あはは!」




End.
落ちとかない平和なエンド。笑
幼少期義勇さんの口調が難しいんだ、これが…




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