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羽月は憧れていた。
自分より少し年上の二人の少年に。


「錆兎兄さん、義勇兄さん!」

「羽月、またついてきたのか」

「こんな所に来て…怪我しちゃうよ」


鱗滝に課せられた試練をこなす為に山へと毎日入っていく二人の背を追っている。

途中に張り巡らされた罠は二人が破っているのを何度も観察してやり方を覚えた。


「だって、兄さん達が居ないと寂しいんだもん」

「全く…そんな事では先生に心配を掛けるぞ」

「いいじゃないか、錆兎。羽月も俺達を見て頑張ってくれてるんだから」


困った様に片手を腰に手を当てながら優しく撫でてくれる錆兎の手に、羽月の目線に合わせて屈んだ義勇が頬の汚れを落としてくれる。

優しい二人が大好きで、二人も一生懸命ついてくる羽月が可愛くて仕方がなかった。


「ふふ、あのね。先生が私も最終選別に行ってもいいよって言ってくれたんだよ!」

「……それは本当か?」

「羽月には早すぎないか?」

「あ、でもね。流石に兄さん達とは同じ時期に行けるわけじゃないの」


しょんぼりと肩を落とす羽月に二人は安堵の息をついた。
まだ幼い羽月に日輪刀は不釣り合いだ。

しかし二人を追う為とは言え、鱗滝の用意した罠を掻い潜り時間は掛かるがそれを乗り越える力量を持つ羽月には感心している。


「兄さん達に早く追いつきたいな」

「…羽月はゆっくりでいい」

「うん。女の子なんだから、好きな人もできるかも知れないよ」

「兄さん達以上にカッコいい人なんて居ないもん!」

「「………」」


柔らかそうな頬をパンパンに膨らませ義勇の言う事を否定した羽月に思わず顔を見合わせると小さく噴き出した。


「な、何で笑うの?」

「いや、羽月が嬉しい事言ってくれるものだから驚いたんだ」

「ありがとう、羽月」

「本当?えへへ、嬉しい」


頬を染めて笑う羽月に二人は穏やかな笑みを浮かべ、片方ずつ手を取り合った。
両手を二人に握られた羽月は細めていた目を大きく広げ少し上にある顔をきょとんとした表情で見上げる。


「帰ろうか」

「錆兎兄さん」

「俺達が羽月を守るから」

「義勇兄さん…うん、帰ろう!」


二人の手を強く握り返した羽月は歩を進めた。
本当ならばついてきたばかりで疲れていたはずの足も、二人が笑ってくれると何故か軽くなる。

帰り道、まだある罠を二人が解除しながら羽月を導く。
必死に泥だらけになりながら見様見真似で罠を超えるその姿を二人は嬉しそうな顔で見ていた。


その一ヶ月後、二人は最終選別へ向かう。


「に、兄さん…」

「泣くな、俺達は必ず帰ってくる」

「だから、帰ってきたら出迎えに来て欲しいな」

「絶対だよ!嘘付いたら許さないからね!」

「「任せろ!」」


そう言って笑った二人を見送った三年後、羽月も鬼殺隊に入る為に最終選別へと向かった。

二人が無事入隊を果たし、戦果を上げている事は手紙で教えてくれていた。
やっと釣り合うようになった日輪刀を腰に差し、鱗滝から貰った兄達の模様を混ぜた面を着ける。


「先生、行ってきます!」

「あぁ」


あれから大きくなった羽月は可愛らしさが少し消え、美しく成長した。
見送る鱗滝へ一礼して最終選別へと向かう。


「兄さん…私、頑張るから」


藤襲山に到着し、兄達からの手紙を思い出しながら山の中を駆けた。
錆兎も義勇も鬼を何体も倒したと知っている。

柱を目指し己を鍛錬しながらも自分へと手紙をこまめに送ってくれる二人の元へ早く行きたかった。


「水の呼吸…」


早速と言わんばかりに目の前に飛び出してきた鬼に刀を抜き、鱗滝から教わった呼吸を使う。


「打ち潮」


水の呼吸特有の脚運びを使い、鮮やかに頸を刎ねる。
腕力こそ男に劣るが女性である為に身体が柔らかく、そのバネを使い力不足を補った。

力で勝てないのならばそれを補うものを会得すればいいと教えてくれたのは錆兎だった。


「人間だ!やっと飯にありつけるぞ!」

「おい、あの女は俺のもんだ!」

「参ノ型…流流舞い」


藤襲山に囚われている鬼が羽月へと群がるが、一切その表情に恐れはなく強かな視線が鬼を射抜く。

一気に頸を飛ばし、日輪刀についた血を払い落とし納刀した。

体力の消耗を最小限に留めるためにしっかりと急所を狙い確実に仕留める。
そう教えてくれたのは義勇だった。


「辺りの状況を確認」


木に跳び上がり、辺りの状況を確認する為に見回す。
もう既に他の鬼殺隊を目指す者の悲鳴が聞こえ、眉間にシワを刻んだ。
本来刀の消耗を減らす為に無駄な戦闘は避けたいがそこから飛び降りた羽月は悲鳴の聞こえた場所へ向かう。


「う、うわぁぁ!!」

「刀、借りるよ」

「えっ!?」

「漆ノ型 雫波紋突き」


刀を落としたままの男に声を掛けそれを拾うと突きの姿勢を取り頸へ目掛けて刀身を突き刺す。
そのまま勢いを付けて横へ薙ぎ払えば容易く頸が落ちた。


「ありがとう」

「う、うん…」

「日輪刀、手放したらそれは死ぬのと変わらないよ」


鬼に抗う手段は日輪刀しかない。
助かりたいのなら、助けたいのなら刀は絶対に手放すなと腰を抜かした男へ告げ羽月はまた駆ける。

その後無事羽月は最終選別を突破し、その事は錆兎や義勇へと鱗滝から知らされた。




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