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飴が溶けないよう氷の入った袋で冷やしながら帰路を辿る。
手を握られた時からずっと繋がれたままの自分の手が心臓でもあるのかと思う程に脈を刻んでいてどうも落ち着かない。


「とっても素敵な方だったね」

「そうだな」

「また行きたいわ」

「俺で良ければ何度でも付き合う」

「嬉しい。約束ね」


指を絡め本当に嬉しそうに笑う羽月に首を縦に振る。
鬼殺隊に入って約束などあってないようなものだ。

それなのに羽月は必ず約束を取り付けてその日を別れる。
それが俺には有難かった。

また会いに来てくれるのだと、会ってくれるのだと思えるから。


「来週も任務が終わったらすぐ小芭内の所に飛んでくるね」

「白鳥のようにか?」

「そう!」


愛らしいその表情と言葉に、絡んだ指をそっと強く握り締める。
どんな意味でもいい、俺の側に彼女がまた現れてくれるのなら何だって構わない。

けれどいつか、羽月に好きだと伝えられたらいいとそう思いながら水柱の屋敷へ送り届けた。


「送ってくれてありがとう」

「言いたくは無いが俺より強くても羽月は女性だからな。これくらい当たり前の事だ」

「そんなこと無いよ、きっと小芭内にすぐ抜かされてしまうと思うもの」

「安心しろ、言われなくともその予定だ」

「もし小芭内が柱になったらお祝いしなくちゃね」


楽しみ、と純粋に微笑む羽月の顕になった首筋に手を入れ髪に触れた。


「あぁ、最後に一つ訂正したい事がある」

「…え?」

「愛らしいと思うよ」

「っ、あっ…それって…」

「これ以上は言わん。今夜も見回りだろう、早く水柱の元へ行って支度しろ。じゃあな」

「ちょ、小芭内!」


俺は片割れの白鳥を握って地を蹴った。
珍しく大きな声を出した羽月に照れ臭くて振り向く事が出来なかった。

振り向いてしまえば想いを伝えてしまいそうだったから。

羽月と出掛けた翌日も変わることなく、俺は鬼を狩り鍛錬する日々とあの日貰った白鳥を眺め平凡な時を過ごしていた。

鎹鴉からの伝言を聞くまでは。


『伝令ッ伝令ッ!』

「どうした」

『水柱、ソシテ継子ガ上弦ノ鬼ト遭遇シ死亡!死亡!』

「なん…だって?」


夜、見回りをしていた俺の元へその知らせが飛んできた。
嘘だ。

俺は信じない。


「っ…羽月が、死ぬ訳ないだろう」

『壮絶ナ戦闘ノ後、柱ト共ニ他ノ隊士ヲ逃ガシ死亡シタ!』

「信じない…俺は信じない!」


あれ程強かった水柱や羽月が負ける筈など無い。
突然大声を上げた俺に鏑丸が驚こうが俺は声を荒らげる事をやめなかった。


「どこだ、羽月はどこに居る」

『水柱ト羽月ノ遺体ハ隠ガ本部ヘ運ンデイル』

「……っ、」


唇を噛み、素早く見回りを済ませた俺はすぐにお館様へと手紙を送った。

羽月に一目でいいから会いたいと。

手紙はすぐに返って来た。
まだ柱ではない俺は隠の者達に運ばれ本部へと向かい、羽月が寝かされているという部屋の前に向かう。


「………伊黒か」

「冨岡」

「俺は失礼する」


先に冨岡が来ていたらしい。
目の前の襖が勝手に開いたと思ったら、気に食わない男の顔が見えた。

相変わらず何を考えているのか分からない瞳は淀んだまま。


「ならばさっさと退け。邪魔だ」

「……分かった」

「……っ、貴様水柱と羽月が死んで何とも思わないのか」

「俺は、強くなる。もっと、もっと。それだけだ」


退けと自分が言った癖に普段と変わらない冨岡に腹が立ってその襟を掴み上げる。
だが冨岡は鈍く光った瞳に眉を寄せ一言告げると俺の腕を払って奥へと消えていく。

こんな所、羽月に見られては怒られてしまうだろうと思うのにもう二度とその声は聞こえない。


意を決して部屋に入った俺の目の前に目を閉じた羽月が布団に寝かされていた。
元々色白ではあったが、頬はいつも桜色が色付いていたというのに今では青白く生気が感じられない。

当たり前だ。


「………羽月」


羽月はもう死んでしまったのだから。
そっと冷たくなった頬に手を這わせ、輪郭を撫でる。

最後に見た羽月は何か俺に言いたそうにしていた。
しかしもう二度と、その言葉を聞くことは出来ない。


「もし、俺が想いを伝えていたら何か変わったか」


変わる訳がない事くらい分かっているのに、ついそんな言葉が口をついて出てしまう。

ふと、羽月の側に見覚えのある飴が視界に入った。

ぼろぼろになってしまった、原型を知らなければ何が形作られていたか分からないであろう白鳥の飴。


「………飛んできてくれると、言ったじゃないか」


拳を作り絞り出すように言葉を吐き出す。


―― 天と通じている動物として昔から言い伝えがあるらしい。

ふとあの店主の言った言葉が頭に浮かぶ。


「…頼む、白鳥。俺の想いをどうか、天にいる羽月に届けてはくれないか」


いつか、俺がそちらに行った時必ず想いを伝えるから待っていて欲しいと。
ボロボロになった飴を袋から取り出し、空へ撒く。

日に照らされた飴は輝きながら風に乗って消えていく。


「羽月、後は俺達に任せろ。お前が継いだ隊士達と共に必ず鬼舞辻の頸を取ってやる」


だからどうか見守っていてくれ。
今度は俺が君の元へと飛んでいこう。





おわり。




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