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私は鬼殺隊では無い。
ただの田舎娘だ。

仕事へ出ると言う義勇君を見送り、一人寝室で布団を敷く。

一緒に使っているから義勇君の香りで一杯で幸せに寝られる魔法の様な布団。


「えへへへへ好き」


明日は早く帰ってきてくれるだろうか。
義勇君は柱だから出たきり暫く会えないことは良くある。

そんな時は場所と帰宅予定のみが書かれた愛のある手紙を送ってくれるから私の宝箱は彼からの文で一杯。

それを読んでいつも寂しさを紛らわせている。


「暫く休みだし、お家でもぴっかぴかにしておこうかな。義勇君綺麗好きだし」


喜んでくれるかな。
たまに見せてくれるあの優しい目が大好き。

この前抱かれた後疲労で息を荒げた私を見下ろして薄く笑ってくれた事を思い出しながらゆっくり目を閉じた。


「おやすみなさい、義勇君」


明日はどんな妄想をして義勇君といちゃいちゃしようか。
そんな事を思って深い眠りについた。



―――
――



「……んー」


寝苦しさに唸る。
そんなに暑くもないし寒くもない時期なのに何故だろうか。

寝返りをうつ為に体を反転させようとした時、聞き慣れない鎖の音が耳に入った。


「な、なになに?不法侵入…者…」

「起きたか」


身構えながら起きようとすると、私を見下ろし薄く口角を上げた義勇君が居た。
どうしてか手も足も動かない。

恋し過ぎて夢か何かでも見ているのかと思って目を瞬く。


「まさか同じ事を考えていたとは驚いた」

「ぎ、義勇君?」

「羽月」


義勇君の冷たい手が私の頬を撫でる。
お陰でまだ完全に起きていなかった私の意識が覚醒して両手足に触れる無機質な冷たさにも気が付いた。

自由に動けない理由が分かる。
鎖で繋がれているのだから当たり前だ。


「これで、誰かと話す事はない」

「ちょっ、どうしたの義勇君」

「楽しそうに話をするお前は好きだが、その話の中に出てくる男達は嫌いだ」


頬を撫でていた指が顎を伝い鎖骨へ下りる。
珍しく口数が多いだとか、この指の冷たさはどうしたのかとか普段だったら飛び付いておかえりを言うはずの私の体は硬直したまま。


「ずっとこうしたかった」

「ぁ、」

「誰の目にも触れず、俺だけを考えていればいい」


寝相が悪い為いつも乱れている寝間着はあっという間に義勇君の指先に開かれる。
彼に触れられるだけで私の体は自然と火照るし、いつもとは違う様子に混乱してる筈が吐露された独占欲に喜びを覚えてしまっている事態。
私の感性単純。


「そんなに嬉しいか」

「…ぅ、え…」


そんな事を思いつつ、いつもはお喋りな口も静かになり下手すると義勇君より話せていない。

鎖に繋がれた手首に口づけを落として緩やかにその瞳が満足気に弧を描く。


「お望み通りぐちゃぐちゃに犯してやる」


色気を含んだ声が鼓膜を震わせた瞬間耳朶を噛まれ自然と声も体も反応してしまう。
あぁ、どうしようしのぶちゃんに話した事を聞かれていたみたいだ。

もしかしてしのぶちゃんにももう会えなくなっちゃうのかな?
後藤くんにも?
蜜璃ちゃんにも、会えないのかな。

でも、普段自分の気持ちを押し込めてる義勇君がこうしたいと意思表示までしてくれたのならそれでいいのかもしれない。


「や、優しくめちゃくちゃに…して下さい」

「やっと…羽月を独り占めに出来る」


私どうなっちゃうのかな、そう思いながら近付く義勇君の気配に目を閉じた。

いつもは優しくて溶けるような行為の始まりも、気分が高まってるのか最初から激しくてついて行くのが精一杯。

苦しいくらいに義勇君の気持ちが伝わってきて涙が溢れてくる。

好き過ぎて失神しそう。
意地悪どころじゃないド攻めな顔かっこよくて爆発もしちゃう。


「…羽月?」

「む、無理……」


義勇君元がいいのにそんな顔されたら私のような変態は容量過多です。

視界が回った後、真っ白になっていく景色に身を任せ私は気絶した。

空気読めずにごめんなさい。










目を覚ますと私は眠りについた時のままだった。

辺りを見回しても義勇君がいる気配は無い。

布団もいつも通り義勇君の枕を抱き締めて着ている寝間着も少し緩んでいるだけ。


「え!?」


あれは夢だったのか。
私の手首にも足にも鎖が付けられた痕跡も無い。


「待って待って恥ずかしい。死んじゃいそう」


ついでに陽も登っていて今が朝だということも分かる。
すると玄関が開く音が聞こえて素早く身支度を整え走っていくと今帰ったばかりの義勇君が驚いた瞳でこちらを見ていた。

はしたない格好ですいません。


「おっ、おかえりなさい!」

「………あぁ」


罪悪感で上擦った声に不思議そうな顔で首を傾げた後いつも通りの返事をくれる。 
あの時のような表情は一欠片も感じられない。


「…羽月」

「はいっ!元気です!!」

「今日時間はあるか?」

「え…?勿論だよ」

「そうか」


抱き締めた私にほんの少しだけ嬉しそうに笑った義勇君の背後からどこかで聞いたような金属音に首を傾げながらどうしたのだろうと思った。

まぁ義勇君が嬉しそうならそれでいいや。

話とは何だろう。
とりあえずお茶と取っておいたおやつを出してゆっくり聞こうと思う。


そんな事を考えながら背後で再び聞こえた金属音に振り向いた。




end.

脳内お花畑な子と不穏な義勇さん。笑

楽しい!!







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