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「寂しい」

「はい?」


私は手土産を渡しながらしのぶちゃんに唐突な本音を溢した。
お茶を出してくれていた手を止め首を傾げた姿がとても可憐なしのぶちゃんのひらひらの袖を掴んでもう一度言う。


「寂しい!!」

「…あの、何がでしょう」


面倒くさそうな気配を察したのか笑顔を崩しかけながらも椅子に座って私へ向き直ってくれる。


「義勇君と付き合えたのは嬉しいけど寂しい!分かってたけど愛情表現が薄くて寂しい!!」

「あぁ…」


因みに義勇君と私は付き合っている。
それはもう私が引くほどアピールをしたお陰で難攻不落と思われた彼は小さく頷いてくれたのだ。

どこへ付き合うんだ?とか言われるかと思いきやちゃんと手も繋いでくれたし、口付けもした。
夜のムフフな事も経験済みであると言う驚き展開。

彼も男だった。


「じゃなくて!」

「羽月ちゃんの妄想の中と繋げて話すのはどうかと思いますがさっさと話を進めていただいても?」

「義勇君が私の事をちゃんと好きだと言うのは自覚してるんだけど、圧倒的言葉不足でたまに激しい寂しさに襲われちゃってさ」

「冨岡さんは元々そうでしょう。羽月ちゃんにはまだ話している方だと思いますが」

「相槌打ってくれてるだけだけどね。いや、その頷いてる姿も素敵だし可愛いんだけど。義勇君最高好き」


ここまでの言動でお分かりかと思うが私は大変お喋りである。
口から生まれてきたのかと何度周りに言われてきたか分からない程に。

義勇君と会った時もまぁそれはそれはベラベラと止まることない話を聞いてもらっている。


「と言う事で私はね、しのぶちゃん」

「はい」

「その寂しさを紛らわせる為に妄想をしてみる事にしたの」

「はぁ、そうですか。楽しそうで何よりです」


拳を握って熱く語る私と、熱々のお茶をズズと吸うしのぶちゃんには間違いなく温度差があるけれどそれはまぁいいとする。

何だかんだいつも話を聞いてくれていることは分かっているから。


「ひへへ」

「…聞きたくありませんが参考程度に聞かせてもらいます。例えばどんな妄想を?」

「あのね」


私の妄想が何の参考になるかは分からないけど、もしこれがしのぶちゃんの将来に何か役立つなら話そう。
いや、元々話すつもりではあったけど。


「私にくそでか重過ぎ感情を抱いている義勇君」

「くそ…?でか…?重過ぎ…?」

「説明しよう」


疑問符がそこらじゅうに飛んでいるだろうしのぶちゃんへ得意げに人差し指を立て笑みを浮かべる。


「私が好き過ぎて他の男に触れてほしくない、目も合わせてほしくない、喋ろうものなら嫉妬でおかしくなってしまいそう!!みたいなどす黒い感情を言うんです。多分」

「確かにそれは重いですね」

「だからね、いつも寡黙でじっと側に居てくれる義勇君が心の中でそんな事を思ってくれてるんじゃないかって妄想してるんだ」

「羽月ちゃんは本当に愉快な方ですね」


くるくると回る椅子で遊ぶ私へ興味を失くしたのか笑顔でそう言うと診断書へ体を向けてしまうしのぶちゃん。

それでもお構い無しに続けた。


「私の為を思って我慢してたけど、何かがきっかけでその気持ちが爆発して監禁されちゃうの」

「わーとっても重いですねー」

「ずっと我慢してたがもう限界だ…羽月ー!!みたいな!」


似てない声真似をしつつ近くにあった座布団を自分に見立ててがばっと抱き着くと感情の無い声と共に手拍子が送られた。

こんな事現実では無いって分かってるからこの塩対応も特に気にならない。


「手錠とかつけられちゃってー、痕もたくさんつけられて、義勇君にめちゃくちゃに犯されたい」

「私の友人に被虐趣味がお有りだとは思いもしませんでした。と言うかその話もうやめにしません?羽月ちゃんはともかく冨岡さんのそういう話聞きたくありません」

「いつも冷静で淡々としてる義勇君の余裕の無い感じ、見てみたいなぁ」

「検討を祈ります。さ、そろそろ診察の時間ですから健康な方はお帰り下さいね」

「頭は健康だと思う?」

「専門外ですから」

「もー!そんな所も大好き!でも仕事の邪魔はしたくないから帰るよ!」


こんな私を友人と思ってくれるだけで有り難い。

真に受けず軽く聞き流してくれているからしのぶちゃんに話を聞いてもらえるのが好きなのかもしれないな、なんて思いながら手を振り部屋を出る。

ちゃんとお土産食べてねと言うのも忘れずに。


「あ、」


ご機嫌で蝶屋敷を出ると外で義勇君が腕を組みながら塀に体を預けていた。
私の恋人は何をしても絵になるなぁと思いながら足音を忍ばせて近寄る。 


「ぎゆうくんっ!」

「あぁ」

「やっぱりバレてたかぁ!ってそんな事よりどうしたの?怪我でもした?」

「いや」


ここに来たと言う事は怪我でもしたのだろうかと抱き着きながら義勇君の体を弄る私。
ただの変態だとは思うけど何かあったのなら大変だ。

しかし何も無いと言った彼の言うとおり傷もなく一安心して息をつく。

そんな私を見た義勇君は目を合わせると直ぐに視線を逸して歩き出す。
帰るということだろうか。


「えっ、あ、待ってよー!」


外でベタベタしたから嫌だったのだろうか。
いつも以上に言葉少ない義勇君を追い掛けた。



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