「伊黒先生、これあげます!」
「…学校に不必要な物は持ってくるな。悪いが没収は出来ても貰う事は出来ん。俺には妻が居るからな」
「えーっ!!」
女子生徒の残念そうな声にため息をつきながら、放課後職員室へ取りに来るようにとだけ伝えて紙袋を手にした。
日頃の礼だとしても悪いが俺には受け取る気は無い。
妻が変に勘違いをしても困るし、何より不必要だ。
「…ん」
白衣に入れた携帯が鳴り、それを鏑丸が咥えて手元へ運んでくれるのを受け取ると画面には愛する妻の名前。
辺りを見渡して生徒や教員が居ないのを確認して画面のロックを外した。
【小芭内君、今日は早く帰ってこれるかな?】
と、それに続く様に可愛らしい白蛇のスタンプがにっこりと笑っている。
流石に学園全体の男共の様子と、学園内に広がる甘ったるい匂いに今日がバレンタインデーだと嫌でも気付かされる。
きっと妻も俺の為に何か用意してくれているのだろう。
そう思うと頬も緩む。
「鏑丸、羽月が何か準備してくれているようだぞ」
隣で画面を覗き込む鏑丸の顎を撫でると嬉しそうに体を揺すった。
早く帰りたいがまだ学校は終わっていない。
これから宇髄が爆発させた美術室も掃除しなければならないし、チョコを預かっていた者に返却としなければならない。
やる事だらけの一日に重い溜息を吐いた。
―――
――
―
「ただい、まっ…!」
「お帰りなさい!小芭内君!」
出来る限り迅速に帰ってきた俺を飛びついて出迎えてくれたのは満面の笑みが今日も可愛らしい羽月で。
しっかりと抱き留めてやれば甘い香りが鼻孔を擽った。
「会いたかった…」
「あれ?お疲れかな?」
「今日がバレンタインと言う事でチョコを持ち込んだ生徒に指導をしたり、また爆発させた宇髄の手伝いをさせられたりと散々だった」
「あらま…それは大変だったね。よしよし」
「ん」
労ってくれる羽月に愛しさがまた更新されて甘えるようにマスクを取れば笑いながらキスをしてくれる。
このまま襲ってしまいたいのはやまやまだが、こんなに可愛い妻が食事を用意してくれたのだから頂かない訳にもいかない。
何度か繰り返して、これ以上はと言う所で押し留めた。
その間に鏑丸が羽月の首元に行ったのを見届け、手を洗いに洗面所へ行くとちゃんと後ろをついて歩いて来てくれる。
こういう所がまた可愛いと言う事を知らないのだろうか。
今日も留まる事を知らない愛らしさに顔が綻んだ。
「そう言えば、小芭内君は誰かからチョコ貰ったの?」
「……そうだな。何個かは」
これが聞きたかったのかと内心思った俺は表情を変えずに羽月が持ってくれていた鞄へ目を移す。
どんな反応が見れるのだろうかと待ちわびていると、動きの止まった彼女は俺と同じ様に鞄へ顔を向けた。
「そっ、そうだよね!小芭内君かっこいいし、優しいし…あ、あはは!流石私の旦那さんだね!」
「ふっ…」
「え!?」
「安心していい。受け取っていないよ」
明らかに挙動不審な態度を表した羽月に小さな悪戯心は満足してその身体を抱きしめた。
羽月以外からのチョコなど欲しくは無い。
興味も無ければ食べたいとも思わない。
「羽月以外には貰わないと決めているからそう悲しまなくていい」
「も、もう…意地悪…!」
「すまない。君の反応を見たくて…意地悪だった自覚はあるからこれで許してくれないか?」
「…え、凄い…えっ!凄い!!」
鞄から出したのは羽月が好きそうな薔薇のテラリウム。
変える途中好きそうだと衝動買いした物だが、反応を見る限り喜んでくれたんだろう。
「さて、喜んで貰えた所で俺にもあるんだろう?羽月に貰えるのを心待ちに仕事を頑張ってきたんだ」
「勿論あるよ!私の手作り!でもご飯食べたら渡すね」
「分かった。楽しみだ」
「うん、楽しみにしてて!今日頑張ったから!」
「あぁ、それと…」
Yシャツからネクタイを引き抜いた俺は後ろで食事の準備をする羽月を背後から抱き締め耳に顔を寄せる。
「羽月も一緒に頂こうと思っているんだが、どうだ?」
「…あ、あわわ…」
「楽しみにしてる」
硬直する羽月の耳裏に唇を這わせれば肩を盛大に揺らして顔を真っ赤にする。
あぁ、出来たらすぐにでも食べてしまいたいな。
「お、お…小芭内君のえっち…!」
「君にだけだ」
「んんっ!」
交際して、結婚して。
共に居る月日は長いと言うのに相変わらず初々しい反応ばかりしてくれる。
勿論、ベッドの上でも可愛らしいが。
その後食事を終えた俺の手元にはビターチョコレートのシフォンケーキに、どうやって作ったのか鏑丸の焼き菓子が乗って居た。
相変わらずの器用さに驚いたが、鏑丸を作るのに流石に苦労したらしく半日も掛けたと言っていて何となくその姿を想像して笑う。
あぁ。
勿論、夜には羽月をたっぷりといただいたよ。
end.
このすけべ!えっち!小芭内っち!
一日遅れてしまいましたがハッピーバレンタイン!!
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