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「それでね、義勇さん。私まだ貴方に贈り物を買っていないんです」

「十分貰った」

「いいえ。それでは私が満足しません。なので、今から思い出を作りに参りましょう」

「…余り無理はしない方が」

「大丈夫です」


一通り嬉し涙を互いに流しながら墓参りを終えた俺達は少しだけ赤い目をしながら町へ手を繋ぎながら向かう。

羽月と俺の子が腹に居るという報告だけで俺は十分に胸が一杯なのだが、隣で嬉しそうな彼女に何を言っても無駄なんだろうと一先ず首を縦に振る事にした。


疲れたなら俺が抱えてやればいい。
片手になってからできる事が少なくなったが、軽い羽月なら余裕で抱えてやる事は出来る。


「じゃーん!ここです!」

「ここは、」

「ここは食器を作れる所なんです。三人分の器、私と貴方で作りましょう」


少し町から外れた場所に羽月は意気揚々と中へ入っていく。
来たことがあるのだろうかと敷居を跨げば、何処かで見たことのある人物が居た。


「来てくださったのですなぁ」

「こんにちは!勿論ですよ。約束しましたから」

「失礼だが、貴方は」


骨骨しい指は黒ずみ、齢六十はいっているであろうこの御老人。
少し離れた所には轆轤が三つ用意されている。


「冨岡様は覚えていないでしょうが、私は貴方様に救われた者です」


深々と頭を下げるその人に俺も頭を下げた。
助けた者の顔はあまり覚えていない。
と言うのも、助けたとは思っていないからだ。

俺が鬼を斬るのは使命だと、当たり前の事だと思って日輪刀を握っていたのだから。


「ささ、こちらへ」


そのご老人は目尻に深く皺を刻みながら微笑み座敷へ案内してくれる。
恐らく身重の羽月へ気遣ってくれたのだろう。


「さ、作りましょう!」

「…上手くできるだろうか」

「私の手がありますよ」


当たり前のように俺の右側へ座った羽月が寄り添いながら手を添える。

一人ずつ作るのだと思っていたから少し驚いたが、彼女の性格を考えればそうでも無い事に気づいて目を細めた。


「手順は儂がお教え致します。さ、どうぞ」

「よろしく、頼む」

「よろしくお願いします」


ご老人に教わりながら必死に器の形を羽月と作る。
俺の分、羽月の分。
そして、俺たちの子どもの分。

形を作り、絵を描いたりと今までしたことの無い作業に最初は戸惑う事もあったが、子どもの分にまで辿り着いた頃には教えられる事も無く二人でこうしようと話ながら楽しく作れた。

作り終えた物は焼かなければならない。

また二人で取りに来ると伝え、ご老人の作業場を後にした。


「難しかったけど楽しかったですね!」

「あぁ」

「楽しんでもらうつもりが私まで楽しくなっちゃって」

「…それが、俺も嬉しい」


先程の事を楽しそうに話す羽月が愛らしくて目を細める。

今度は左側に居る彼女の細い指に少し力を込めれば照れたように微笑んだ。


いつになっても初々しく愛らしいこの笑顔が俺の心を高鳴らせる。


「羽月」

「はい」

「…俺は、羽月を愛してる。出来る限り、長生きしてみせる。だから、結婚して欲しい」

「っ…喜んで!不束者ですが、よろしくお願いします!!」


きっと羽月が居なかったら、俺はこんな風に幸せな時を過ごせなかっただろう。
俺が死んだら別の男と幸せになって欲しいと思う傍ら、誰にも渡したくないという本心を余命のせいにして隠してきた。

だがもう違う。
余命のせいにして逃げる事はやめた。


「俺の全てを掛けて、お前を…お前たちを幸せにする」

「私も、私の全てで貴方達を幸せにすると誓います。生まれてきてくれて、ありがとう。義勇さん、誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、羽月」


もう日も暮れた田んぼ道。
少し肌寒い空の下、俺は羽月に誓いの口づけをした。

幸せな誕生日は、いつもこうして羽月が共に居てくれる。


「俺は、幸せだ」


まだ薄い腹を撫でながら、羽月に微笑んだ。


―――
――


そして時は過ぎ、俺は大きな泣き声を上げる息子を抱き上げて羽月を見た。

近くの棚には三つの皿が並んで俺達を見守ってくれている。


「やっと、顔が見れたな」


赤子特有の泣き声は愛らしい。
生まれて間もないと言うのに力一杯、己の全てを使って命を伝えようとしてくれている。


「ありがとう、羽月」

「…ん、義勇さん」

「本当に、…っありがとう」


誕生日の時と同じ様に視界が滲む。
泣きたい程大変だったのは羽月だと分かっていても、俺の涙腺は脆くなっているようだ。

肩で息をする羽月が俺へ、息子へ優しい笑みを浮かべながら手を伸ばして抱いている腕へ触れる。


「三人で、もっと幸せになりましょうね。義勇さん」

「…あぁ、必ず」


いつの間にか泣きやんだ息子の額へ口付けて、その後羽月に口付ける。

余命など関係無い。
足掻いてみせる。

俺には、守るべき大切な人達が居るから。

辛い事もたくさんあった。
死んでしまいたいと思う事もたくさんあった。

それでも、生まれてこれて良かったと思える。
俺が生を授かれた事に、仲間と出会えた事に、そして羽月とこの子に会えた全ての事に、感謝を。




end.

義勇さん誕生日だけど義勇さんsideで誕生日話!!

自分が大切な人をなくしてなお生きていた事を悔やんでいた義勇さんが、生まれてきて良かったと思える様になった心の変化を書きたかったので…

言い訳は置いとき、義勇さん誕生日おめでとうございます!
あなたのお陰で私はここでたくさんの方に出逢えました。
拍手やメール、ツイッターでお友達が出来ました。

義勇さんに感謝を込めて。









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