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羽月と結ばれたあの日から一年が経とうとしていた。

隣には少し大人びた彼女が笑っている。

あの後胡蝶に頼み込んで羽月と同棲出来る様になり、一年が経とうとしてる今も関係は良好だ。


「義勇さん、今日はお天気が良いのでお散歩にでも出掛けませんか」

「それは良いが体調は大丈夫なのか」

「えぇ、大丈夫ですよ」


ここ最近具合の悪そうだった羽月は天気が良いからなのか顔色も良い。

体調が良いなら今夜は、と少し期待に胸を膨らませながら差し出される手を握る。


「無理はするな」

「分かってますよ。ふふ、義勇さんは心配症ですね」


愛する者の体調が悪い時に心配するのは当たり前の事だ。
柔らかく笑う羽月にそんなことは無いと頭を振り上掛けを羽織ろうとすれば、用意していたと言わんばかりに彼女が掛けてくれる。

鬼は居なくなった。

その代償に、仲間達の大半が亡くなった。

俺と羽月を揶揄いながらも何だかんだ応援してくれていた胡蝶も。


「義勇さん、少し私に付き合ってもらえますか」

「勿論だ」

「ありがとうございます」


改めて握り直した手を繋いで家を出る。

鬼舞辻無惨を倒した後、本当なら羽月に結婚を申し込みたかった。

だが俺には生きられる時間が少ない。

痣が出た者は二十五の年を超えられないと分かっている。

その事を話した上で羽月はそれでも最期まで共に居たいと言ってくれた。

だから、その言葉に甘えてしまっている。


本当は別れるつもりでいたのに、泣きながら笑った羽月を突き放す事など出来なかった。

器量も気立ても良い羽月なら、俺でなくても貰い手はいるだろう。

俺の手を引く彼女の後ろ姿を見ながら、気付かれない様に頭を振った。


「お花を買っていきましょう」

「あそこへ行くのか」

「……はい」


隊士達の眠るあの場所へ。
どうして行くのか分からなかったが、羽月なりの考えがあるのだろうと何も突っ込まずにただ後ろをついて行く。

最近は寒いし、羽月の体調が良くなかったから墓参りにも行けていなかったと言うのもある。

手を繋いでいると荷物を持てないのが難点だが、そんな事よりも俺と繋いでいたいと言う羽月に離すことが出来ず、結局荷物は彼女が持っている。


「到着です!」

「……久しいな」

「そうですね」


あの決戦で墓石が増えた。
遺体の無い者も居るし、遺体はその者の墓にはあるが名前は此処に彫ってある者も居る。

胡蝶の遺体は無かった。
だが、形見は妹が持っている。

縁のものを埋めたのだと羽月が前に言っていた。


「しのぶ様、お久し振りです」


一輪ずつ墓な花を添えた羽月は胡蝶の名が刻まれた墓石の前に座った。
この時ばかりは流石に手を離していたので俺も片手ではあるが眼前に持ってきて目を閉じる。


「今日は、ご報告があって来ました」


目を閉じながら墓石へと語り掛ける羽月の声に耳を澄ませる。
報告する事などあっただろうか。

そんな事を思いながら。


「義勇さんも聞いていてくださいね」

「…俺もか?」

「はい」


試しに目を開けて羽月へ視線を向けると彼女は既に目を開けていたようで、穏やかな微笑みを返された。


「…私、子を授かりました」

「………子?」

「はい。義勇さんとの子です」


なんてことの無いようないつもの話し方なのに、その内容は俺にとっても大切な事で、きっと胡蝶がここに居たらあの笑顔のまま湯呑みでも落としてそうだ。


「ここ最近体調が優れなかったのは」

「つわりだそうです。この前お医者様に言われて私も驚いたんですよ」

「…、っ」


また笑った羽月を俺は優しく引き寄せ抱き締める。
体に衝撃がいかないよう、そっと。
それでも腕には力が入っていただろうが。


「…産んで、くれるのか」

「何を当たり前な事を。愛する方との子ですよ」

「……すま」

「謝るのはお腹の子に失礼ですからね」


思わず口を出てしまいそうになった謝罪の言葉を羽月に遮られる。

俺はあと幾年もせずに死ぬ。
子が大きくなる前に碌な手伝いも出来ないかもしれない。
それでも、それでも俺は。


「……義勇さん?」

「ありがとう…」


とても嬉しい。

頬を温かい雫が流れ落ちて行く。


「…こちらこそ、です」


炭治郎が目を覚した時と同じくらい、俺は嬉しくて泣いた。
こんなに自分が涙脆いとは思っていなかったのに、人生というものはとても不思議で、そしてとても幸せな事だ。

涙を流す俺を笑う事なく、両腕を背に回してくれた羽月は緊張しましたと明るい声で言った。




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