その後私は蝶屋敷で生活を始め、一日も経つとお館様から正式にお掃除係りに任命して頂けた。
お会いしてはいないけれど、綺麗な文字で書かれた手紙を頂いたから間違いない。
あのお館様に手紙をいただけるとか末代まで誇れる。
すいませんテイクアウトは可能ですか?
「お、アンタがお掃除係りか」
「ごっふぉ…っおうおぉ…」
「おいおい大丈夫か?」
お掃除係り、本日初出勤と言う事で最初は隠の方が道案内をしてくれるとしのぶさんから聞いて外で待っていると軽やかボイスと見た事のあるやる気のなさそうな顔に思いっきり噴き出した。
(あの後藤さんじゃないか!!)
カナヲちゃん達とは既にエンカウント済みではあったけれど、こうしてメイン(?)キャラに出会すのは久しぶりすぎて吐きそうになった。勿論嬉しさで。
だけど、お館様や柱の方々以外には異世界から来たという事は伏せて欲しいと言われているからここで初対面だと言うのに名前を叫んでしまったらどうしたって誤魔化しきれる自信が私には無い。
「す、すみません…大丈夫です…」
「具合悪いなら早く言えよ?」
「兄貴…想像通りの優しい兄貴…尊い」
「本当に大丈夫か?」
炭治郎達に優しいなって見てたけどやっぱり面倒みのいい兄貴で涙が出た。
私の情緒よ落ち着け。
心配そうに私を見る後藤さんに大丈夫だと頷いて、頭を下げる。
「永恋羽月です!新参者ですがこれから気合い入れてお掃除係りやらせてもらいます!しゃっす!」
「はは、お前面白いな。俺は後藤だ。よろしくな、羽月」
「ぐぁっ、ひょっとして天使…?」
奇行ばかり繰り返している私に明るく笑ってくれた後藤さんが手を差し出してくれる。
有難く両手で握り返しながら聞こえない程度の声で本音をお漏らしさせて貰った。
「そんじゃ、羽月が今日担当する家なんだけど」
「独り暮らししてたので家事は任せて下さい!」
「お、そりゃ頼りがいがあるぜ。水柱邸、宜しく頼むぜ」
「…み、みず…?」
神様神様。
あなたはおちゃめな御方なのですね。
突然こんなぶっ込みがやって来るなんて私には想像もつきませんでしたよ、えぇ。
「あ、羽月は水柱知らねぇか。多分今日は仕事で居ねぇし安心していいぞ」
「助かりまぁっす!!」
「俺も俺も」
多分私の言っている助かると後藤さんの言っている助かるは違う意味だろうけど言葉の表現は一緒なので敢えて何も突っ込まないでおいた。
とりあえず私の職場の先輩に後藤さんの爪の垢を煎じて飲ませたい。
「んで、ここが水柱邸だ」
「とりあえず深呼吸していいですか」
「緊張してんのか?」
「ちょっと肺一杯取り込んでおきたくて」
「は?」
ここが推しの家。
鍵を預かっているのだろう後藤さんが冨岡邸の玄関を開けると畳の香りがして鼻の穴を全開に広げた。
ごめんね同士の人たち。
無事にソッチに帰れたらこの香りを再現して香水作ってもらうから許してほしい。
全力で空気を吸ったら吸い過ぎて咳出た。
「ごほっ、ごふっ、ぐぇっふ!」
「変わった奴だな、お前」
「それっ、ほどっ…ごっふ…でもっ!」
「ま、ちゃちゃっと説明するわ」
咳き込む私の背中を叩いてくれるエンジェル後藤さんの後ろに着いていく。
敷居をまたがせて頂いた瞬間きちんと頭を地面にこすり付けた。
しのぶさんに貰った手帳に冨岡邸の部屋の詳細をメモして行く。
何だかイケないことをしている気がするけどこれは仕事と言い聞かせる。
「と、まぁこんな所だな。何か質問はあるか?」
「あ、あの…本当に私が水柱様のお洗濯をさせて頂いても宜しいのでしょうか…」
「やってもらわなきゃ困んのは水柱だからな。男の物洗うのは抵抗あるかも知れねぇけど頑張ってくれ」
「精神統一したいのでちょっと滝行行ってきます」
「待て待て待て待て!!?」
推しの着てた服触れるイベント来て死なないオタク居る?
いないわけ無いじゃん!!
けれど踵を返した私の肩を後藤さんに掴まれ滝行へ行くのは失敗した。
「とりあえず俺がまた迎えに来るからそれまでに頼んだわ」
「命をかけてやらせていただきます」
「よく分かんねぇけど鼻血は拭いとけよ。じゃあな」
「お気を付けて!!」
去っていく後藤さんの背中に心臓を捧げるポーズで見送る。
そして私一人になった空間で鼻血を垂らしたままとりあえず地面に頭をぶつけておいた。
勿論その後飛び散った鼻血は丁寧に拭き取った。
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