「……約束を破ったから罪悪感で羽月を好きって言ってる訳じゃない。前の羽月だって、今の羽月だって好きなんだ」
「約束、ってさ」
「羽月を幸せにするって約束」
その言葉を聞くと同時に、今日も夢を見た彼の言葉や姿が全て目の前の無一郎に重なった。
前世の記憶なのだろうか、少しずつ今とは違う町並みの背景と黒い服に身を包んだ無一郎の姿が頭の中に流れてくる。
「むいち、ろ」
「羽月、泣かないでよ。困らせたかった訳じゃ無いんだからさ」
「ちが、そうじゃ、無くて」
無意識に目から滴り落ちる涙を気にすることなく、最後に浮かんだ前世の記憶を思い出す。
無一郎は鬼殺隊と言う鬼を狩る組織に居た。
一方私はなんてことの無い町娘で、無一郎と出会ったのは藤の家で働いていたからだった。
そこまでは穏やかな記憶だけど、夢で見た後の記憶はとても悲しくて寂しい結末。
「羽月?」
「っ、馬鹿。ばかばかばかばか、ばか…っ!」
「な、何…」
「死んでんじゃないわよ…!」
理由も言わずさよならを告げられた私の元に、鬼殺隊の柱だったと言う背丈の大きい銀髪の男性が訪ねてきた。
驚く私に目を伏せた彼が告げた、無一郎の死。
それを思い出した。
「もしかして、思い出したの…?」
「思い出したよ!冬になると必ず見てた夢の理由も分かったよ!」
「…っ」
「会いたかった…!」
あの時の無一郎は今よりもっと年下だった。
そんな彼がなんで死んでしまったのだと、何度も嘆き涙を流した。
でも目の前にはあの時以上に成長した無一郎がいて、今を生きている。
時刻は遅いと言うのに泣き叫ぶ私を無一郎は両手で涙を拭いながらごめんねと呟いた。
「無一郎が、謝ることじゃ、無いっ」
「ずっと言いたかったんだ。置いてってごめんって」
「っう、だって、それが、無一郎のお仕事だから、」
「約束を破る以上に、羽月の泣いた顔が見たくなかったから」
矛盾している私に文句も言わずただただ優しい口調で話してくれる無一郎にまた涙が出てしまって、制御出来そうにもない。
「泣かないで。大丈夫、僕はここに居るから」
「…う、ん…っ」
「もう離れたりしない」
私の手を自分の心臓付近に当てて、鼓動を感じさせてくれる。
トクントクン、と穏やかな音は私を優しく落ち着かせてくれた。
「私も、ごめんね」
「謝る事なんか1つもないでしょ。そんな事より聞きたい事、あるんだけど」
「…ぅ、」
「教えて」
両手で頬を固定された私にもう逃げ場は無い。
寒いはずなのに泣いたせいなのか、早まる鼓動のせいなのか顔が凄く熱くて目を逸らす。
「好きだよ、羽月」
「っ、」
「ずっと側に居させて」
「…わたしも、好き、なので、側に居て…下さい」
「当たり前」
無一郎の服を少しだけ握れば、嬉しそうな声と共に口元を覆っていた筈のマフラーがずらされて唇に冷たくて柔らかい感触が当たる。
目を閉じて少しだけそのままで居るとゆっくり無一郎が少しだけ離れた。
「やっと触れられた」
「…や、やめてよ。照れるから…」
「どうして?これからもっと色んなことするのに」
「い、色んな、こと…」
「今は外だからこの程度で済ませるけど、これから先こんなもんじゃないから覚悟してね」
「なんで通常運転に戻るんかなぁ!?」
さっきの優しい雰囲気はどこへやら、いつも通り淡々とした口調に戻った無一郎について行けず突っ込めば含みのある笑みを浮かべられ喉がヒュ、と悲鳴を上げる。
「僕達もう高校生だからね。あの時とは違うんだよ」
「い、いや…あの時より今の方が厳しいんじゃ」
「他の子だってしてるでしょ。大丈夫、ちゃんと卒業するまでは避妊するし」
「そういう所!」
さっきまでのシリアスな空気はどこに行ったのか。
完全に涙が乾いた私も、いつもと変わらないツッコミをしてしまって目を見合わせる。
「…ふふ。羽月だっていつも通りじゃないか」
「確かに…」
「それでいいんだよ。泣かれるより、こうしていつもの羽月で居てほしいから」
涙の跡を拭った無一郎の笑みはさっきとはまた違って、胸がキュンとなった。
「あ、あのさ」
「なに?」
「朝彼氏居たとか居なかったの話の前に不機嫌になったのって」
「知ったような話するから、浮気されたかと思った」
「浮気って」
「いいでしょ、そんな話は。どっちにしろ、羽月は今までもこれからも僕のなんだから」
いつもの帰り道を二人で歩く。
いつもと違うのは私達を繋ぐ片手と今の関係。
勝ち誇った顔の無一郎に好きだなぁなんて思いながら肯定しておく。
「僕の理想は羽月似の女の子と男の子一人ずつかな」
「話早くない?」
「言っておくけど僕達の関係は恋人じゃなくて婚約者だからね」
「えっ!」
気の早い無一郎に驚きながらも、それでもいいかなんて思える。
今度こそ、この平和な世界で彼と幸せになりたい。
再び出会えた私達の奇跡を祝福するかのように、白くてきれいな雪が降り始めた。
おわり。
久し振りに書いた無一郎くん!!
おでこをくっつけて見つめるシチュエーションをさせたいが為にこの話を書かせて貰いました。
滾る…
時折シリアスではありましたが基本ゆるふわ甘目指して書いたのでとても満足です。
ご観覧ありがとうございました!
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