目を開けると不貞腐れたような視線を私へ向ける蛇柱様と目が合った。
まだ朝の匂いがするから、気を失ってそんなに経ってはいないとは思うけれどその前にしていた事を思い出して勢い良く背中を向けてしまう。
「おい」
「ごごごごごめんなさいすみません申し訳ありません」
「何故限界を迎える前に言わぬ」
「う、それを聞きますか…」
「聞く権利が俺にはあると思うが?」
「ですよね…はは、は…」
「こちらを向け」
蛇柱様が珍しく単語で怒っていらっしゃる。
普段ネチネチした怒り方なのに。
自分の気持ちを伝えるどころでは無くなってしまった空気に布団を盾にしながら振り向く。
「…ぅ、」
「全く、お前は相変わらず忙しない。気をやったのは無理をさせた俺にも否はある。だからそう背を向けるな」
目が合った瞬間、眉を下げた蛇柱様に体の体温が上昇する。
着流しに着替えた蛇柱様の袖が私の髪を撫でる仕草がまたあの時を思い出させて胸が一杯になり、両手をそっと添えた。
「…好きです」
「な、」
「蛇柱様、いえ…伊黒様。ずっとお慕いしてました」
「急に、お前は…っ」
優しい顔をするから、あんな風に熱く私を求めてくれるから引かれないよう少しは押し留めようとしていた気持ちの堤防が決壊してしまった。
起き上がり、近くに座ってくれていた伊黒様の手に自分のを重ねる。
「お、落ち着け!」
「だって、好きなんです」
「そんな事知ってるに決まってるだろう」
「本当ですか?」
「お前が好きでもない男と口付けなどしない事くらい、ずっと見てきたんだ。分かっている」
重ねていた筈の私の手は逆に包み込まれ身体を引き寄せられる。
良い香りのする伊黒様の香りにすっぽり包まれて、目を瞬かせた。
「ずっと、見てきた…」
「ちまちまと家事をやる姿が飽きぬと見ていたが、その内に愛らしく感じるようになったんだ。文句あるか」
「な、ない!無いです!」
「なら復唱してくれるな」
照れているのか、顕になっている耳が真っ赤になる伊黒様に頬がだんだんと緩くなって、それと同時に私まで照れ臭さが移ってしまって胸に顔を埋めた。
身長がちいさくて良かったと思えたのは初めてかもしれない。
言葉にできないくらいの喜びに袖を掴む力を強くすれば、腰に回った腕が答えてくれるかのように抱き返してくれる。
「羽月、こちらを向け」
「むっ、無理です…!」
「いいから向け。俺もお前に言いたいことがある」
「うぐ…」
顎を掴まれ強制的に顔を上げさせられると綺麗な色彩に視線を囚われた。
「す、好きだ」
「…む」
「む?」
「無理です死んじゃいます伊黒様やっぱり告白無かったことにして下さい!!かっこよくて心臓止まっちゃう!」
苦しい。
幸せ過ぎて心臓が全速力で限界を訴えるくらいにときめいてしまって、このままでは死ぬ。
私の素っ頓狂な言葉に目を見開いた伊黒様は直ぐに眉を寄せ身体を布団へ縫い付けると、風呂場の時の様にまた見下される態勢になった。
「ほう?人が必死に思いを伝えたと言うのに無理とは貴様も大概度胸があるようだな?」
「だ、だってかっこよすぎて…」
「いいだろう。羽月がそう言うのならば、風呂場の時のように素直にさせてやる。気をやっても叩き起こしてやるから覚悟しておけよ」
「ひ!?」
「素直じゃないお前に少し躾をしてやろう」
「ご、ごめんなさっ…!」
「優しくしてほしくば先程のように愛らしく強請ってみせろ」
今度は意地悪な表情を浮かべた伊黒様にしっかりお灸を据えられた私は致死量程の愛を囁かれながら、その寵愛を受け入れ自分の気持ちを再び伝えることになった。
好きすぎておかしくなってしまいそうだとどこぞの誰かが言っていたが、今ならその気持ちもわかる気がする。
「これからお前は俺の屋敷専属の隠になってもらう」
「そんな事可能なのですか?」
「お館様に私情を申し立てるのは気が引けるが、それ以上に羽月を他の男の家へ仕事に行かせるほうが嫌なのでな」
「あ、今心臓早まり過ぎて止まりかけました」
「早く慣れろ」
「伊黒様は慣れるのが早いのです」
共に入った布団の中、優しく笑った伊黒様に優しい口づけをされて私はまた死にかけた。
終わる。
ちっちゃい×ちっちゃいは尊い。
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