※基本本編設定のままです。 今日は曇り。 どんよりとした空気が何となく嫌いじゃない俺は、縁側に出て淀んだ空を見ていた。 「むいちろー!」 「あ、月陽」 元気で明るい声が僕を呼んで、すぐに誰か分かった。 大好きな月陽。 声のする方へ振り向いた瞬間、柔らかくて暖かい体温に包まれる。 「会いたかったよ無一郎!元気にしてた?」 「うん、僕も会いたかった。見ての通り元気だよ」 「ふふ、よしよし。今日はね、お菓子たくさん持ってきたの!」 「え、長く居られるの?」 バーンと言う効果音付きで菓子折りの箱を持ち上げた月陽を抱き返しながら聞く。 いつも月陽は数時間しか俺の所に居てくれないし、冨岡さんが独占しているせいで抱き着いたりすると凄く睨むから離れて行っちゃうし、正直凄くつまんない。 でもこれだけ大量のお菓子を買ってきてくれたって事はいつもより長くいてくれるんだろうかと願いを込めて聞いてみると、にんまりと笑った月陽と目が合った。 「今日はお泊りなんだな」 「お泊り!?」 「それでね、無一郎にお願いがあるの。私、泊まる所が無いから、良かったら泊めてくれないかな?」 「うん!勿論いいよ」 こんなに嬉しいと思う出来事最近あっただろうか。 月陽が持っている荷物を全部奪って、僕とそう変わらない優しい手を引いて部屋へ案内する。 「無一郎は?今日お仕事ないの?」 「あるけどさっさと終わらせて帰る!」 「そう、なら私は無一郎の帰りをお家で待っててもいいかな?」 「出迎えてくれる?」 「うん、おかえりって言わせて」 優しい笑顔で俺にそう言ってくれた月陽に心が暖かくなる。 お館様やあまね様が言ってくれるおかえりも勿論嬉しいけど、月陽から言われるおかえりはもっと特別だ。 「今日はお仕事以外ずっと無一郎の側に居るね」 「うん、大好き」 「んーっ!私も大好きだよ無一郎!」 可愛いね、と言って更に笑顔になる月陽と俺の大好きの意味は違うけどそれでもいい。 今は、だけどね。 「まだ任務まで時間あるしお茶しようよ」 「いいよいいよー!私がお茶注いでくる!」 「じゃあ俺も一緒に行く」 折角月陽を独占できる時間を一秒でも無駄にしたくない。 お茶を取りに行こうとした背中に抱きついたまま歩けば優しい月陽は剥がそうともせずに一緒に居てくれる。 「邪魔じゃないの?」 「そんなわけ無いでしょ」 「…ふふ」 冨岡さんに対しても月陽は甘いけど、僕には更に甘い。 歩くのに不便じゃない訳無いのに、腰に回った僕の腕を掴みながら歩いてくれる。 弟のように思われてるからかもしれないけれど、こうして触れ合って人の体温を感じる事は嫌いじゃない。 勿論月陽限定だけどね。 「ねぇねぇ、食べ終わったら一緒に稽古しようよ」 「いいよ!無一郎と手合わせってした事ないもんね」 「かっこいいところ見せちゃうから」 「それは参っちゃうなぁ。無一郎、強いから」 手加減してね、なんて言ってるけど月陽がとっても強い事知ってるんだから。 実力があるくせに柱にならないなんて本当に勿体無い。 一度だけ見せてもらった月の呼吸はとても綺麗で雷の呼吸に似た光を放つ。 月陽はどちらかと言うと太陽のような性格だけれど、暗い夜道を照らす月のように皆を包み込むような笑顔も見せてくれる。 淡くて柔らかい月の光は嫌いじゃないけど、そんな笑顔を浮かべる月陽は大好きだ。 だからずっと月陽には笑っていて欲しいし、俺にだって笑いかけて欲しい。 冨岡さんだけに独占なんかさせないから。 お茶を持って俺の部屋でお菓子を食べる。 何でも好きなものを食べていいよって言ってくれたから、適当に目に付いたものを開けて口に放り込む。 「…月陽、これ何?」 「あ、バレちゃった?」 大切そうに包まれたソレを指差せば、子どものように笑った月陽に首を傾げる。 お菓子では無さそうだけど。 「これはお仕事終わった後に温めて無一郎にあげようと思ったんだけどね」 「温める?」 「そう」 ゆったりとした動きで包を開くと、中には大きめのお椀が入っていて美味しそうな香りがした。 覗き込んで見るとそこにはふろふき大根が何個か入っていて、思わず目を見開いて月陽を見る。 「無一郎がふろふき大根が好きって聞いたから、挑戦してみたんだ」 「俺の為に作ってくれたの?」 「うん!」 俺の顔を見て、俺以上に嬉しそうな笑みを浮かべた月陽にもっともっと嬉しくなってその小さな身体に抱きついた。 「凄く嬉しい」 「私も無一郎が喜んでくれて嬉しいよ」 「ねぇ、ひとつだけ食べてもいい?」 「いいよ」 そっと一切れのふろふき大根を持ってきてくれていた割り箸で食べると、今まで食べた中で凄く美味しくて優しい味がした。 ←→ |