「かっわいいねー!」

「………」

「義勇さんも、そんな所に居ないでこっちに来ればいいのに」


家に猫が居ついた。
俺は動物が苦手だ。

だが月陽は、


「じゃじゃーん!ねこまんま!」


この通り、動物が好きだ。
気付かれないようため息をつきながら縁側から猫と戯れる月陽を眺める。

餌付けをするなと言いたい所ではあるがあの笑顔を見てはどうも言いにくくなってしまう。


「んにゃー!可愛いにゃー!」


あのよく分からん猫語は何なのだろうか。
他人がやっても何か思う事など無いだろうが、月陽がやるとなるとまた別問題になる。

動物は苦手だが、月陽が動物の真似をするのは嫌いじゃない。

膝を抱え小さく蹲って餌を食べる猫を見ながら機嫌が良さそうだ。


「………」


しかし鍛錬が終わった後すぐに顔を出した猫のお陰で俺は一人月陽が出してくれた菓子を摘んでいる事に対して少しばかりつまらない思いをしている。

そろそろ返せと猫に視線をやれば好きな者から見たら可愛いだろう鳴き声だけが返ってきた。


「沢山お食べー」

「…月陽」

「はーい!あっ!」


返事をした月陽に驚いたのか、しっかりと食べ終えた猫は何処かへ行ってしまった。

少し残念そうに肩を落とした様子で俺の側へ腰を下ろし、唇を尖らせる。


「行っちゃいました」

「そうか」

「むぅー」

「……俺では駄目か」


そっと月陽の膝に頭を乗せて頬を撫でれば瞬きして直ぐに笑みを浮かべた。
猫の真似事は出来ないが可愛がられる事くらいならしてやれる。


「随分と大きな猫ちゃんですね」

「そうだな」

「ふふ。随分と甘えん坊な猫ちゃんですにゃ」


髪を撫でる月陽は先程の猫にしていたかのように優しい声で俺に語り掛けて来る。
愛らしい語尾が少し照れくさいが、やっと俺に意識が向けられた事に自分自身も満足していた。


「義勇さんの髪を手入れしてあげましょうにゃー」

「あぁ」

「髪紐取りますね」


後頭部を向けた俺の髪を束ねる紐を解き、懐から櫛を取り出した月陽が優しく梳いてくれる。
いつも適当に結っていたが月陽と一緒になって、寝る場所を共有するようになってからはたまに俺の髪を結ってくれるようになった。

今日は俺が後に起きたから自分でしていたからちょうど良い。


「毛量多いですね、義勇さんて」

「そろそろ切るか」

「短髪の義勇さん…いやいや、カッコよすぎて死人出ますよ」

「無いな」

「じゃあ私が悶絶死します」

「それは困る」


ムフフ、と笑い合って穏やかな午後の日差しを浴びる。
なんてことの無いこの日常が穏やかで愛おしい。
また日が落ちる頃には互いに刀を握って命をかけた任務をしなくてはいけない。

だからこの時間は俺にとってかけがえのない時間。


「……」

「わ、あはは!何するんですか!」


むき出しの膝が目に入り何となくそこを撫でてみれば月陽が声を上げて笑い出す。
誰かを擽るなど最近した事無かったなと思いながらむくむくと顔を上げた悪戯心に火がつく。


「ほら、髪の毛結い終わりましたから!や、やめっ…あはははは!!」

「今度は俺が可愛がってやる」

「ちょっ、!」


髪を結い終えたと同時に月陽を縁側へ押し倒し馬乗りになって脇へと手を伸ばす。
膝であそこまで笑うのならここはどんな反応をするのだろうと指先を折れば藻掻いていた身体がビクリと動いた。


「ぁっ、駄目ですって…!」

「……擽りに弱いのか」

「は!?まっ、待って下さいよ!」

「優しくしてやるから安心していい」


目を細めて微笑んでやれば顔を真っ赤にした月陽の脇を盛大に擽ってやる。
笑ってる合間の可愛らしい声がどんどんその気にさせようとしている様にしか考えられなくなってくるのは作戦なのだろうかと思う。


「ひー!もうやめてっ、ぁはっ!ぁっ…やめて下さいってばぁ!」

「誘ってるのか」

「違うっ!」

「随分と厭らしい子猫だな」


靴を脱がせた月陽の太腿に手を這わせ横抱きで持ち上げれば息が上がって赤くなっていた筈の顔が青ざめていく。


「あの、この後見回りとか任務あるの分かってますか…?」

「だから一回で我慢する」

「いやいや、まずしないっていう考えとかって」

「無いな」


きっぱりとそう言い切れば薄い唇の端が引き攣った。
生意気な口は塞いでやろうと、敷きっぱなしにしていた布団へ横たわらせ唇を合わせる。


「子猫は可愛がるものなんだろう?」

「わ、私は子猫では…」

「なら俺は俺なりの可愛がり方で愛でてやろう」

「ひぇぇ顔も声もいい…!」


首筋を舐めてやれば肩を震わせた月陽をこの後、小一時間程可愛がり尽くしてやった。
何だかんだ蕩けた顔で求めてくる表情にまた加虐心が擽られ、ふと猫と戯れていた姿を思い出す。


「猫と話していたみたいにおねだりが出来たら欲しいものをやろう」

「っう…ぎ、義勇さんの…ほ、ほしい。です…にゃあ…ッ」

「…………」

「っひ!?は、激しっ…!義勇さっ、ゃあっ!」


猫もたまにはいいかも知れない。
可愛い子猫には沢山褒美をやらなくてはいけないな。



End.
終わっておく()




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