※最終戦後。捏造盛り盛りです。死ネタ注意



穏やかな場所だ。
鬼舞辻無惨を倒した俺達は人気のない湖の側に居た。

そろそろ夜が明ける。

腕の中の月陽に視線を落とせば、ゆっくりと紫の瞳が開かれた。
愈史郎や珠世と呼ばれる月陽のもう一つの家族と同じ瞳。


「…もう、夜明けですか…?」

「あぁ」

「そっか…」


腕の中の彼女の足や手は片方ずつ無くなっている。
一歩、また一歩と湖の中に入れば水面に紅が滲んだ。

残った手が俺の出血し続ける腹に触れ、悲しそうに眉を寄せる。


「そんな顔をするな」

「…義勇さん」

「安心していい。ずっと、ずっと一緒だ」


そう、ずっと。
互いの身が朽ち果て息が止まるその寸前まで。

腰まで水が浸かった辺りで止まり月陽に口付ける。

一瞬のような、永遠のような長い口付けをして額を合わせた。

太陽の光が月陽の身体を崩れ落ちさせる前に、また足を動かし更に奥へと進む。


「…愛してます、義勇さん」

「俺もだ」

「色々なこと、ありましたね」

「…あぁ」

「凄く、密度の濃い…幸せな3年間でした」


月陽と居たのはたった数年。
約3年の内に出会い、恋に落ち、心も身体も重ねた。

友としてではなく、家族としてではなく、初めて異性として愛した。

下を向いて鬼特有の角や牙が生えた顔を見ると、美しい瞳から大粒の涙が零れては湖に波紋を広げ落ちていく。


「…その瞳も綺麗だ」

「珠世さんと、愈史郎くんとお揃いですから」

「羨ましいな」


生き残った仲間達はもう長くはない俺達を見送ってくれた。
伊黒辺りが一番納得がいかなかっただろう。

けれどあいつは月陽の髪に一つ口付けをして俺達の意思を汲んでくれた。


「今度出会ったら、今の様に諦めたりなどしないからな」

とあいつらしい言葉を残して。

もし、月陽が一番最初に俺の所ではなく伊黒の元へ行っていたのなら結末は変わっていたかもしれない。

鬼にならずとも、幸せな結末を迎えられていたかもしれない。
けれど、どんな結果であれ月陽は…そう思って思考をやめた。


「…そろそろ、か」

「義勇さん」

「月陽」


空が明るい。
少しずつ身体の一部が崩れ落ち始めた月陽を見つめ横抱きにしていた態勢から向き合うように抱き締める。

そうすれば片腕で答えてくれた月陽と見つめ合いながら一歩踏み出した。


足場の無くなった俺達は深い深い湖の底へゆっくり沈んでいく。


口から酸素が抜けていくのも気にせずただただ最後まで互いの目を見つめ合い微笑んだ。

愛している。
これまでも、そしてこれからも。

たとえこの命尽き身体が朽ち果てても。

ずっと、心は側に居る。


―――ありがとう。


そう聞こえた気がした俺は湖の中で崩れる月陽に向かって目を細めた。

きっと、そろそろ俺も。


目を閉じ開けば月陽の瞳に同じく紫の瞳を持った自分が映った。

口付けた時に月陽の血を飲んだ。
共に消える為に。
一人になんてさせはしない。

指を絡め合い陽の光が差し込む中で、徐々に灰と化す俺達の身体。

出来ることなら来世も月陽と出会いたい。
俺はきっと何度も何度も月陽に恋をするだろう。

姿や形が変わろうと、そんなもの関係ない。
年齢だって関係ない。

月陽が俺が良いと望んで手を伸ばしてくれるなら、喜んでその手を取るだろう。

そしていつか交した約束を実現させよう。
平和な時代で二人の家庭を、幸せな暮らしを。
その時の為に今は少し眠るだけだ。

消える寸前に見えた月陽の笑顔を心に刻んで、俺達は湖の中へと消えた。




end




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