年末。
世間はきっと新たな歳を迎えるための準備をしている頃だろう。

愛する人や、家族。
それぞれがきっと、来年を良い年にしたいと願いながら。


「ふぁーっ!」

「随分とでかい欠伸だな」

「疲れたか」


歳を越すだろうその時間、私達は義勇さんと小芭内さんと三人でうどんを啜っていた。

これから向かう所が一緒だと帰りがけに会った小芭内さんを強引に誘ったのはいいけれど疲労が溜まっていたせいか欠伸をしてしまう。


「疲れもありますけど、お腹も一杯になったので余計に」

「無理はするな」

「んん、ありがとうございます」

「気を張り続けろとは言わないがあまり緩めるなよ。一気に疲れが来て身体が動かなくなる」

「えへへ、心配してくれてるんですね。気を付けます」

「俺は柱として適切な助言をしたまでだ」


義勇さんと小芭内さんという強い方々に囲まれて安心しない訳が無いじゃないか。
緩んだ笑みを浮かべると右側から手が伸びて来て頭が撫でられた。
反対側からは優しい溜め息も聞こえる。


「月陽、寝るなよ。宿に帰ってから寝ろ」

「んー分かってますってばぁ…」

「そろそろ出よう」

「はーい」


つい微睡んでしまってまたも緩く返事をしながら席を立つと義勇さんは当たり前のように手を繋いでくれる。

甘やかされてるなって思うと同時にもう片方の手が寒くて反対側へと伸ばした。


「……何だ」

「寒いんです」

「…全く、今回だけだからな」

「今回だけだぞ、伊黒」

「貴様に言われる筋合いは無いだろう。話し掛けて来るな」


両手を繋いで貰って大満足な私は言い争う二人の手をちょっと強く握ると少し不機嫌そうな顔が2つ振り向く。

二人とも綺麗な顔してるのに眉間にシワなんか寄せて勿体無いなぁ。


「ねぇねぇ、私今世界で一番安全な場所に居るかもしれません」

「何を言ってるんだお前は。眠すぎて脳が花畑にでもなったか」

「脳が草にはならないだろう」

「だって、こんなに強くてかっこいいお二人が側に居てくれるんですもん。へへへ、幸せ!」


ぶんぶんと大きく両手を振れば、繋いでくれている二人の手も振られるわけで。
表情とは真逆で手だけが楽しそうな様子がおかしくて吹き出してしまった。


「あっはは!」


明けましておめでとうは言えないけれど、このゆったりとした時間を楽しむ事くらいは許してくれるだろう。


「くっ、」

「あー!小芭内さん笑ったでしょ、今!」

「笑ってない」

「笑ったな」

「っ、笑ってないと言ってるだろう!貴様らが見たのは気のせいだ!!」

「えー、いいじゃないですか。笑ったって」


誤魔化すようにもう片方の袖で口元を隠す小芭内さんも、興味を示す義勇さんもこうしていると普通の男性と変わりない。

どんなに怒ったような口調になったって小芭内さんが握ってくれている手は優しく包み込まれていて離れないし、義勇さんが握っている手は指先が絡められて段々ぽかぽかしてくる。


「…何だか騒がしいな」

「そろそろ時間か」

「あ、年越しですね!」


鐘が聞こえて年を越す時間までを秒読みしていく。

立ち止まって耳を澄ませる二人を眺めていたら、ふといい事を思いついて両手を引っ張った。

別に周りに聞いている人は居ないのにこそこそ話で思いついた事を話せば、義勇さんは一つ頷いて、小芭内さんは呆れたような息をつきながらも視線は優しく頷いてくれる。


三、

二、

一、


「せーのっ!」


一際大きな歓声が聞こえると同時に私達は手を繋いだまま高く飛び上がった。

去年から今年へ変わる瞬間、一緒に飛ぶなんて自分でもくだらないとは思ったけどこうして共に年を越せたことを何かしらで表したくて。


「明けましたね!!」

「あぁ」

「何をしたいと言うかと思えばまさかこんな事だとはな。相変わらずお前の考える事は分からん」

「ふふ。ちょっとした願掛けです」

「?」


年も、辛い事も、そして人類の敵と戦っても、一緒に飛び越えて行きたいから。
本当は皆でやりたかったけど、柱の方々が集合するなんてお館様の招集無しには殆ど難しい。

意図が読めず首を傾げた義勇さんに笑い返せば、鋭い小芭内さんは私の考えが読めた様で優しく繋がれていた手が深く絡んだ。


「その願掛け、俺も乗れたか?」

「はい!」

「何を願掛けしたんだ?」

「どんな事も、一緒に飛び越えられます様にって」


私達は鬼舞辻無惨を倒す上できっと、これからどんどん強い敵と戦わなくちゃいけない。

だから願掛けくらいしたい。


「月陽」

「わ、」

「また来年も同じ事をしよう」

「ぎぎぎぎ、義勇さん!」


繋いでいた手を引かれると、義勇さんの胸の中に抱かれて顔に熱が集中して頭が混乱してしまう。
耳元で囁かれて吃る私の、今度は小芭内さん側の手が引かれて義勇さんの腕の中から脱した。

脱したのは、良いんだけど。


「ならば俺もやる。月陽、分かったな」

「ひぇ…」


顎を持ち上げられ、小芭内さんの端正な顔と瞳に至近距離で見つめられる。
情けない声を出せば満足そうに口元が歪んで居るのが見えた。


「わ、分かりましたから!分かりましたから離して!尊さで心臓が止まってしまいますから!」


私が混乱しても絶対に離されない両手は二人の気持ちが現れていて、流石に照れてしまう。


「月陽、今年も宜しく頼む」

「うぅー…勿論です!私こそよろしくお願いします、義勇さん!」

「いつまでもお前のままで居ろ。お前の笑顔は見ていて飽きぬ。分かったか、月陽」

「はい!」


恥ずかしいけど、それでも嬉しさのが勝って満面の笑みを浮かべる。

優しくて強くて、かっこいい二人。


「義勇さん、小芭内さん」

「あぁ」

「何だ」

「いつもありがとう。優しいお二人が、大好きです!」


そう言って、走り出す。
絶対顔が赤いから、見られたくなくて。

でも、大好きは伝えたくて。

きっと二人は気付いてると思うけど、それでも私は手を引いて走った。


飛び越えてみせる。
どんな事だって。

皆がいるから、きっと大丈夫!!




end.

どちらとも付き合ってない軸のお話。

明けましておめでとうございます。
今まで応援していただきありがとうございました。
本年もゆっくりではありますが、これからも頑張って行きたいと思っておりますのでどうぞよろしくお願い致します!

この状況下、楽しみが減らされてしまいストレス発散も難しいとは思いますが、お体やお気持ちを大切に出来て、そして楽しい生活を少しでも皆様が送れますように願いを込めて。

一緒に乗り越えていけますように!!


ここまで読んでいただきありがとうございました。


2021/01/01 あお




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