「あ、あの…愈史郎君?」 「何だよ」 「私、じゃなくて、花火を…」 「俺は」 何か言いかけた愈史郎君の言葉と同時に花火の音が被って聞こえない。 「え…?」 「………っ、だから!」 頬を染めた愈史郎君に強く引っ張られて抱き締められる。 いきなりの事に頭がついていけなくて、それでも抱き寄せてくれた事が嬉しくて。 ぎゅ、と愈史郎君の服を握った。 「お前は、何でそう鈍いんだ!」 「あ、あの、それはどう言う…」 「俺はこんなに、お前にあからさまに表現しているのに…っ!」 痛いくらい抱き締められているのに、愈史郎君のせいで痛覚も何もかも何処かへ飛んでいってしまう。 あからさまにとはどういう事なのだろうか。 困りながら顔を見上げると前みたいに目を吊り上げて私を見る瞳に強く胸を打たれた。 「好き、なんだ…ずっと、お前が!」 「……嘘ぉ」 「くっ…だから、あんなにお前に優しくしてたのに」 「だって、あれは珠世さんの代わりかと」 「珠世様にはもっと丁寧だ!」 「それもどうなの?」 怒りながら好きって言われるなんて。 軽口を叩いていると言うのに、私の瞳は雫を零す。 「泣くなよ」 「だ、だって」 「珠世様の事は大切に思ってる。これからもその気持ちは変わらない。だが、月陽だって大切だ」 「二股男…」 「さっきも言っただろ。お前の事は愛してるんだ。察しろよ」 そう言って、愈史郎君の唇が重なった。 同時に花火が最終段階に入ったのか大きな音と光が私達を照らす。 「…それで、お前はどうなんだ」 「私もずっと愈史郎君が好きだよー…」 「兄としてではなく?」 「とっくに越えてます」 私達しか居ないからじゃない。 お互いしか同族が居ないからじゃない。 私は愈史郎君だから好きなの。 信じてなさそうな愈史郎君の頬に軽く口付けして同じ色の瞳を見つめた。 「随分と遠回りしたみたいだな」 「ほんとだね」 「月陽」 「ん?」 「これからは兄妹じゃなく、恋人同士だ。その意味、分かるか」 愈史郎君の真剣な顔に、私は笑って頷く。 恋人同士、なんて初々しいものなんかとっくに通り過ぎてしまった気はするけど。 「不束者ですが、これからもよろしくね。愈史郎君」 「……」 「……愈史郎君?」 「いいや、何でもない」 真剣な顔から一瞬別の表情を浮かべた愈史郎君に思わず問い掛ければすぐに顔を逸らされてしまった。 何でもないのならきちんと返事が欲しかったところだけど。 「帰るか」 「うん」 「……これからは別々の布団で寝るか」 「え、何で?」 「こ、」 「こ?」 突然体を離して手を繋ぎながら歩き出した愈史郎君についていきながら首を傾げる。 どうして恋人同士になったのに布団を別にしなくちゃいけないのだろうか。 やっぱり嫌だったのかななんて不安になりながら一本先を歩く愈史郎君の後ろ姿を眺めていると、耳が赤くなっているのが見えた。 「ゆ、ゆしろ」 「い、言わせるな!相変わらず頭の回転が遅い奴だ!」 「だって、」 「それでも一緒の布団で寝たいなら覚悟しとけよ」 振り向いた視線の熱に私も同じ様に赤くなってしまった。 覚悟とは、そういう事でいいのだろうか。 じんわりと握った手の間にどちらのものか分からない熱が広がる。 「か、覚悟…しときます…」 「………その言葉、聞いたからな」 初めて見た愈史郎君の瞳の熱に浮かされながら二人の家へ向かって歩く。 珠世さん、助けて。 愈史郎君がかっこよすぎて私塵になってしまいそうです。 空いている手で顔を抑えながら、男の人としての愈史郎君に悶えた。 「昔の私どうして愈史郎君の側に居られたのかな」 「どういう意味だ」 「かっこよすぎて無理。日光に当てられたくらい苦しい」 「…あほ」 これから先の人生、愈史郎君が側にいてくれるなら私は何があっても幸せだと思う。 最期の見えない旅路だけれど、のんびり二人で歩んでいけたらそれでいい。 「愈史郎君、すき…」 「もう聞いた」 「ひぃ…」 家に着いた私達は、カチコチに動揺しながら交互に湯浴みを済ませいつも通りに敷かれた布団で夜明けを迎えた。 「………情けない」 「そそそそそ、そんな事無いよ!」 「くそ、珠世様…俺は情けない男です…」 結局、その日に関係以外の進歩は無かったけれどそれでも私は嬉しかった。 小さい頃から一緒に居てくれたから裸なんて何度も見たことがあるのに、緊張して口吸い以上が出来ないなんて意識してもらえて嬉しくない訳がない。 「へへ」 「どうしてお前はそんなに嬉しそうなんだ。そんなに嫌だったのか」 「違うよ。愈史郎君に女の子として見られてるんだなって」 「当たり前だろ」 「それが嬉しいの」 私を見つめるその優しい瞳で今は充分。 呆れながらも小さい声で愛してると言ってくれた言葉はちゃんと私に届いたよ。 End. 愈史郎のキャラが…! でも後悔はない…!!!! ←→ |