「何やってんだよ、月陽」

「有一郎先生」

「こんなに泣いてさ。飴でも食べる?」


後ろから聞こえた声に振り向けば有一郎君もそこに居た。


「何事だ」

「縁壱先生」

「…月陽を泣かせたのは誰だ」

「ち、違っ…」

「月陽せんせいはお腹がいたいそうだ!!ひとりでトイレがこわいならばおれがついていこう!」


縁壱先生と手を繋ぎながら現れた杏寿郎さんは相変わらずの大きな声で私の腕を引っ張ってくれた。

その後も続々と集まってきた子達は、私の知ってる人ばかり。


「…あはは!」


錆兎君に真菰ちゃん、村田さんにあまね様。
勿論お館様も。
みんな、みんなここに居る。


「いたすぎて頭でもおかしくなったか」

「なでてやる」

「ううん、大丈夫!ありがとう、義勇くん。小芭内くん」


すぐ側でずっと私にくっつく二人の頭を撫でて涙を拭う。

本当は大学で愈史郎君と会えるまで凄く不安だったし寂しかった。
もう二度と皆と会えないのかと思ってた。

だけど、こうして再び出会う事が出来た。


「先生ね、今とっても幸せだよ!」


そう言えば、心配そうな顔をしていた子達も先生達も笑みを浮かべてくれる。


「ね、皆で遊ぼうか!」

「それなら私も混ざろうか…」

「えぇ、悲鳴嶼先生も是非!」


これから皆は自分の思う様に生きていく。
生きていける。

鬼に大切な人を奪われる事も、自分の生命を奪われる事もないこの世の中で。


「せんせい、何をしてあそんでくれるの?」

「真菰ちゃん、良い質問だね!それは…」

「それは?」


真菰ちゃんと錆兎君が私を見て生唾を飲みながら答えるのを待っている。


「追いかけっこです!」

「えー!!」

「先生達で皆の事捕まえちゃうから、早く逃げないとー…こちょこちょの刑です!」


そう言えば皆は楽しそうに悲鳴を上げながら子供たちが園庭に逃げていく。
その様子を私達が見送っていれば、誰かの手が肩に置かれた。


「良かったな」

「愈史郎君…うん、そうだね。だって見て、あんなに楽しそうだよ」

「…お前も負けじと同じ顔してるぞ」

「えへへ、やっぱり?」


愈史郎君に記憶は無い。
だけど、この時代で初めて会った時ついつい話してしまった。

だから私がこうなった理由を知っている。


「ちょっと愈史郎先生。僕が居るのに月陽といちゃつかないでくれる?」

「はぁ?」

「俺も居るんだけど、無一郎」

「わっ!」


私の肩に置いていた愈史郎君の手を払った無一郎に左、有一郎君に右肩を掴まれ体制を崩せばしっかりと受け止めてくれた。

小さかったはずの二人は、私なんかより全然身長が高い。


「大学からの仲なのは知ってるけどそんなの僕には関係ないから」

「だから何言って…」

「今回は俺も無一郎に同意だ。月陽は譲らない」

「私も忘れられては困るな」

「よ、縁壱先生まで?!」


何やら雰囲気がおかしくなってきた所に、エプロンの裾が少し強めに引っ張られ目線を下に移せば不機嫌そうな義勇さんがこっちを見ている。


「つかまえたぞ」

「…え?」

「ざんねんだったな、とみおか。おれのが先だった」

「あ、あれ?義勇君も小芭内君も逃げたんじゃ…」


いつの間にか三人の先生を押し退けた二人はしたり顔で私を見上げてくる。

疲れてしまうだろうと屈んであげれば両腕をホールドされた私に二人が顔を近付けた。


「月陽はずっとおれのだ」

「今回はゆずるつもりはない」

「「やっと見つけたんだ」」


耳元で囁いた二人の声に目を丸くしていれば自分の頬に柔らかい2つの感触がする。


「あー!!!」

「おい!」

「…その手があったか」

「はぁ…」


自分の頭上で四人の先生の声が聞こえても私はまだ唖然としていた。

今回、は?
ずっと?

やっと、見つけた?


「…あの、もしかして二人とも」

「つぎは月陽せんせいの番だ」

「くわしくききたいなら掴まえてみせろ」


必死で状況を処理しようとしながら二人へ話し掛ければ年相応な悪戯っ子の笑みを浮かべて私から離れていく。


「僕から逃げられるとでも思ってるの?」

「逃がすものか」

「私と勝負をしよう、冨岡、伊黒」

「貴様らには躾が必要だな」

「えっ、あっ…先生達、ちょっと!」


すぐに二人を追い始める先生達に手を伸ばしても聞く耳持たず全力で追いかけ始めてしまった。
その場に取り残されたのは私と悲鳴嶼先生で、騒がしかったはずの場所がとても静かになる。


「…相変わらず好かれているな」

「ひ、悲鳴嶼先生?」

「またその内に写経でもするか」

「えっ!?」

「南無…では私も捕まえに行ってこよう」

「はっや!」


全力で走った悲鳴嶼様はあっという間に私から離れて子供達を捕まえに行ってしまった。
今度こそ取り残された私は園内に響く皆の笑い声に目尻を下げ頬を叩く。


「とりあえず、私も捕まえなきゃね!」


記憶があるとか、無いとか、そんなの今はどうだっていい。
今は遊ぶ時間なのだ。

いつもの調子が戻ってきた私は、次々に先生達に捕まる子供達を見ながらその輪の中へ走っていく。

会いたかった皆の元へ。





End.

年齢操作失礼しました。
逆ハー!楽しかったから後悔してません!笑
本誌関係ない内容ですのでネタバレもしてないと思います。
その点ご安心下さいませ!笑