「あのー、義勇さん」 「抱きたい」 「何盛ってんですか。駄目に決まってるでしょう」 胸元で交差する義勇さんの腕を叩き振り返れば無表情ながらに不機嫌そうな顔をしている。 まぁ確かに私も逆の立場だったら同じ事になりそうだけれど、この場で抱かれるのは絶対嫌だ。 「機嫌直して下さいよ」 「………」 「油断してた私が悪いですから、本当にごめんなさい」 今度は身体ごと振り返って義勇さんの頬に手を当て撫でる。 少し顔を寄せてくれた事が少し嬉しくて目を細めれば今度は優しく抱き締めてくれた。 「お家に帰りましょう?」 「宿に泊まる」 「……」 やっと口を開いたかと思えばどれ程嫌な思いをさせてしまったのか分からないけれど藤の家で盛られても困る。 少し考えた私は仕方ないと小さくため息をついた。 「ならせめて家に帰ってからしましょう?」 「家ならいいのか」 「駄目って言っても今日ばかりは押し切られそうですし」 「なら急いで帰るぞ」 最近忙しくてあっちこっちに行っていたし私自身恥ずかしいけれど義勇さんと肌を合わせるのは嫌いじゃない。 程々にしてくれれば。 指を絡ませて私の手を引っ張る義勇さんにそんな事を考えながら前を歩く背中を見つめた。 「伊黒は優しいか」 「え?あ、はい」 「そうか」 なぜ突然小芭内さんの事を聞かれるのだろうと首を傾げたけれど、繋がれた手が少し強くなったのに気付いて握り返した。 「……くな」 「ごめんなさい、聞き取れなかった」 「伊黒の所に一人で行くな」 「……どうしたんです、急に」 何だか変な義勇さん。 不機嫌が治ったと思ったのにまた何やら考え始めてしまったのか。 「義勇さん、私義勇さんの事大好きですよ」 「分かってる」 「大好きで大好きでたまらないので、安心してください」 繋いだ手を引っ張って今度は私が義勇さんに抱き着く。 この人と離れるなんて考えられない。 もしこの先私が義勇さんに愛想を尽かされたとしても、きっとこの気持ちは揺らぐ事なんか無い。 「月陽」 「だから、信じてくれませんか?」 「…すまない」 そう言って義勇さんが頭に口付けてくれる。 もしこの先私と別れて他の女の子とこうしているなんて考えれば嫌で嫌で堪らない。 口には出さないけど、私だってそれなりに独占欲だってあるのだ。 こんな事を思う日が来るなんて思わなかったけど、それでも思ってしまうのだから仕方がない。 「すき」 一言呟いて俯く義勇さんの唇に自分のを重ねる。 「だいすき」 もう一度そう言えば今度は義勇さんからも口付けが降ってくる。 言葉は無いけど、それが返答のようで嬉しい。 私を見つめてくれる、その優しい目が大好き。 離れた顔に笑い掛ければ目がそらされてしまうけど、これは義勇さんが照れた時のものだと知っているから気にならない。 「それにしても、義勇さんと小芭内さんがあそこまでくっつくのはこれから先もう二度と見れない気がします」 「無くていい」 「珍しいものを見たから何だか得した気分です」 「………」 「あはは」 小芭内さんを嫌ってはないけれどやはり男同士でくっつくのは駄目なのか何か言いたげな義勇さんに思わず笑い声を上げる。 写真か何かに残しておきたかったけれどそんな高価な物は持っていないから脳内にしっかり刻んでおこうと心の中で思った。 「襲うぞ」 「すいません揶揄い過ぎました」 すぐ様謝れば義勇さんが困ったように目尻を下げた。 小芭内さんとくっついて仲良しの義勇さんもいいけれど、やっぱり私とくっついてくれる義勇さんが1番いい。 「お腹空きましたね」 「なら何処かで朝食を取って帰るか」 「そうしましょう!」 朝日が登る山中、指を絡ませ歩く私達の影が一歩先を歩く。 帰り軽く朝食を済ませた私達は家に帰り、眠そうな義勇さんに優しく抱かれた。 眠いなら寝ればいいのにと思うけど、そういう時こそ下半身は元気になるのだと言っていたけどどういう事なのだろう。 男の人ってよく分からないけど、その日の夜寝不足で仕事に行くことになりました。 暫く小芭内さんに単独接近禁止命令が出されたけど、さっき鴉から貰った手紙で今度新しい店に付き合えと誘われた事は秘密にしておこうと思う。 おわる。 長くなってしまった…笑 ←→ |