「どうかしましたか?」

「いや」


じぃっと私を見つめる小芭内さんに何だか恥ずかしくなってきて目を逸らすと、腰に回されていた手の力が少しだけ強くなった気がする。


「随分と心臓の音が早いな」

「気のせいです」

「落ち着いて呼吸を整えろ。少しでも血鬼術が弱まったら仕方がないが冨岡の援護をする」

「一瞬でやりましょう」

「珍しく好戦的だな。そんなにイヤか」

「そういう訳じゃないですけど」


恋仲の前で他の男性とくっつくのはとても気まずい。
ただでさえ独占欲の強めな義勇さんがこれ以上私達を見ていたら後々大変になるのは目に見えている。


「っ、」

「え?」


ブォン、と重いものが吹っ飛んだような音が聞こえた瞬間小芭内さんが私を抱き締めその場から勢いを付けて飛んだ。

驚いて下を見れば義勇さんが吹き飛ばされている。


「義勇さん!」

「余所見しているからだこの愚図。しっかりととどめを刺せ」


何とか空中で体制を整えた義勇さんは眉間にシワを寄せたまま頷きもう一度呼吸を使って鬼へと向かって行く。
このままじゃ義勇さんの気が散ってしまう。


「小芭内さん」

「何だ」

「このまま突っ込みましょう!」

「は?」


どうやらあの鬼は左手が引き寄せ右手は反発する力を持っている。
と言うことは今右手は使えないという事。

私達が動けば動くほど相手は左手に集中しなければならないとなれば義勇さんにだけ向けられている意識を逸らせば何とかなるかもしれない。


「仕方がない、しっかり掴まっておけよ」

「え?」


右手に刀を持った小芭内さんが私の腰を持ち上げ足に力を込める。
何だか嫌な予感がすると思った瞬間、背中に掛かった圧力に思わず小芭内さんの首に腕を回して叫んだ。


「ちょっ、これっ…思ってたのと違う!!」

「煩い、舌を噛むぞ」


背中から鬼に突っ込むなんてしたことが無いから怖いに決まってる。
歯を食いしばりながら逆側に通り過ぎていく景色にひたすら目を閉じて小芭内さんにしがみついた。


「冨岡、こちらは重い荷物のお陰でいつものように動けん。お前が補助しろ」

「言われなくても」

「えぇぇ!?何を意思疎通したのか私には全く分かりませんけど!!」


ガクンと右に飛んだ小芭内さんに出来る限り私の体重が反発しないよう身体をしっかりとくっつけると、何故か舌打ちが聞こえた。
重いってことだろうか。


「無い胸を当てるな」

「こらっ!」

「月陽は脱ぐと凄い!」

「義勇さん!?」


何なのだろうか、抱っこされたまま鬼と戦う事になるなんて思いもしないし寧ろ私今お荷物状態だし今回参戦しなければよかったと心底思う。

義勇さんも目をくわっとさせて言う事でもないからね、うん。


「蛇の呼吸 蜿蜿長蛇」

「水の呼吸 生生流転」


けれど蛇の呼吸は水の呼吸の派生だからか相性はいいのだろう。
けどね。


「おえっ、酔う…」

「吐いたらシメる」

「酷いっ!」


小芭内さんの動きがうねうねしてて酔う。
すごく酔う。

気を使ってくれてはいるのだろうと感じるけれど乗り慣れない乗り物に乗っているようでかなりしんどい。


「ラブラブアタックは効きまセン!」

「月陽は俺のだ」

「敵の煽りに乗るな馬鹿者」

「はっ、早くっ…義勇、さんっ!小芭内さん…私、もう…無理」


ヤバいです、と言えなくて息も絶え絶えに二人へ言えば何故か動きが止まる。


「「(ムラッ)」」

「伊黒」

「お前俺はこの状態だぞ。少しは気を使え」

「オーウ、男は狼デス」


何故かざわつき始める三人に理解の出来ない私は小芭内さんの胸を叩きながら義勇さんを睨んだ。

吐いたりしたら一生恨む。


「…そろそろ終わりだ。冨岡などとくっつけた屈辱晴らしてやる」

「………」

「後半役得でしたよネ?アナタ」

「行くぞ月陽。耐えろよ」


刀を構え突然やる気が出たお二人が一斉に鬼へと飛び掛り、小芭内さんが両腕を斬り落とす。
それが再生する前に義勇さんが後ろに立って勢い良く頸を刎ねた。

その瞬間血鬼術でくっついていた小芭内さんから身体が離れ、腰に回っていた手はゆっくり離される。


「怪我はないか」

「あ、はい」

「月陽」

「わぷっ!」


私の顔を除く小芭内さんに頷こうとした時、後ろから勢い良く抱き寄せられ頭を義勇さんの肩にぶつけた。

痛い。


「男の嫉妬は見苦しいぞ」

「血鬼術だ」

「ふん…鬼を斬ったのなら俺は帰る。風呂に入らねば」

「あ、小芭内さん。ありがとうございます」

「…筋肉痛になったら揉んでもらうからな」


くしゃ、と前髪を雑に撫でた小芭内さんが居なくなり無言で私を抱き締める義勇さんと二人この場に残った。