「何なんだこれは!」


辺りに小芭内さんの怒声が響き渡る。
分からなくもないけれど、小芭内さんと絡み合うように抱き合う義勇さんがその声量に眉を寄せていた。


「トレビアァァンッッ!!!美しい男と愛らしい男のハーモニー!」

「何言ってるのか分かりませんどうしよう義勇さん」

「西洋人のようだな」

「不愉快だ。実に不愉快だ。さっさとその頸を斬れ!」

「分かっては居るんですけどっ…!」


鬼に近付こうとすると凄い勢いでふっ飛ばされ近づく事が困難なのだ。

柱二人に私が呼ばれたのは、このなんて言っているか分からない鬼のせい。
義勇さんの言うとおり西洋人なのだろうけど、日本に渡航して来て鬼舞辻に鬼にされるとは何とも運の悪い人だと思う。

いや、楽しんでそうな所あるけれど。
鬼舞辻はもう少し人を選んだりしないの?

磁気を使った血鬼術に私達は苦戦し、ついに義勇さんと小芭内さんが頸にまで刀が届いたと思った瞬間冒頭のような絡み合うようにひっついてしまったのだ。

義勇さんと小芭内さんが胸板と頬をくっつき合わせているのはまぁまぁ悪くは無いのだけれど、いつまでもこれでは鬼の頸は取れない。

何やら二人を見て興奮しているのはとても怖いけど、私がどうにかしなくてはいけないのだ。
今も怖いけどこのままでは後が怖い。小芭内さんの。


「離れろ冨岡」

「離れない」

「気色悪い事を言うな!」


血鬼術のせいで離れないと言いたいのだろうけれど正気を失った小芭内さんが更に怒鳴る。
鬼は鬼で興奮しながら二人を見てるし何なのだろうこれは。


「ベリーナーイス!!冨岡、もっとくっついてしまいなさい!」

「っ、」

「くっ」


磁気を強めたのか更に二人がくっついていき、少し苦しそうな声が聞こえる。
急ぎ少しでもいいから血鬼術を緩めないと。


「月の呼吸 霜月」


磁気のせいで近寄れないのなら凍らせるまで。
刀を振るい二人を近付けさせる左手を狙えば直撃はせずとも掠ったところから鬼の手が凍っていく。


「アナタも仲間に入れてほしいですネ!」

「違います!」

「凍っていく…ならば切り離せばいいのデス!」


躊躇なく自分の腕を切り離した鬼のお陰で義勇さんと小芭内さんが離れた。
三人で掛かれば大丈夫だと、すぐ様義勇さんから遠退いた小芭内さんへ振り向けば勢い良く自分の力では無い力にふっ飛ばされていく。


「うわわわ、小芭内さん!」

「チッ、気を抜くからだ!」

「!?」


不可抗力で小芭内さんに勢い良くくっついてしまえば、勢いを殺しながら受け止めてくれる。
けれど、ガチャリと歯車の様な音が聞こえて嫌な予感がした私はゆっくり身体を引いてみた。


「…………」

「………はぁ」


今度は私と小芭内さんがくっついて離れなくなってしまった。
その様子を驚いた顔で見ていた義勇さんは真顔に戻ると無言で私に視線を送ってくる。

小芭内さんは首を振ってため息をついていたけど、今度は私がそれどころではない。


「待って!違いますって!」

「おい冨岡。これでは動けん、お前がやってこい」

「………」

「血鬼術!これ、血鬼術ですから!」


てちてちと近寄ってきた義勇さんが私と小芭内さんを離そうと身体を引っ張る。


「なんて美しいトライアングル!!」

「煩いよもう!!何となく今のは分かったからね!」

「罪な女性デス!」

「義勇さん、これアイツのせいですから!早く頸落としてきてください!」


段々腹の立ってきた私はくるくると踊る鬼にツッコみながら必死に剥がそうとしてる義勇さんにお願いする。
小芭内さんは手を腰に回してるしどう考えてもそこは血鬼術のせいじゃないですよね。


「小芭内さんも義勇さん嫌いだからって煽らないでください」

「俺は嫌われてない」

「何を言う。これは不覚にも敵の血鬼術を受けたお前のせいだろう。俺はお前を受け止めてやっただけだ」

「もうほんとヤダ…」


十二鬼月でも無く、正直巫山戯た鬼にこんなに苦戦して何をしてるのだと自分でも思う。
辛うじて自由な手を目に当て体の力を抜く。


「伊黒、月陽から離れろ」

「離れてほしいのならばあの巫山戯た鬼を倒せ」

「……月陽」

「そこは小芭内さんに同意です」

「何もするなよ」


小芭内さんに珍しく強めに言い聞かせた義勇さんが私達を何度も振り返りながら鬼へと向かって行く。
しかし本当に磁気とは面倒くさい血鬼術だなと思いながら小芭内さんを見上げればこちらを見ていた瞳と目が合った。