「さ、さて!とりあえず洗濯しようかな!」

「はぁ…俺は少し寝てくる」

「はい」


一通り照れは過ぎ去ったのか、再び手を動かし始めた月陽に頭を抱えながら日当たりのいい縁側へ横になる。
目を閉じれば洗濯物を手洗いする音が聞こえ眠気を誘われた。


「…鏑丸、俺は少し寝る。散歩するならしてくるといい」


側に寄り添う鏑丸の顎を一撫でして、すぐに眠りについてしまった。
その時見た夢は余り憶えていないが悪くないものだった気がする。

少しずつ起床に向けて脳が覚醒する中で、心地の良い声と感触を感じて無意識に頭を擦り寄せる。

柔らかくて温かい。
俺は確か縁側で横になっていたが、布団でも掛けてくれたのかと目を開く。


「あ、小芭内さん。おはようございます」

「………」

「よく眠れましたか?」


そっと俺の髪を撫で、優しい木漏れ日のような笑顔を浮かべた月陽の顔が仰向けに寝転んだ俺の目の前にいる。
もう片方の手は赤子を寝かしつけるかの様に俺の胸の上を規則的にとんとんと叩いていた。


「……何してる」

「寝づらそうにしていたもので、余りいい枕ではありませんが私のお膝をお貸ししました」


穏やかな声が寝起きの働かない頭に響いて心地が良いと感じる。
きっと普段なら子ども扱いをするなと言っていたかもしれないが、今はこの心地良さをまだ堪能していたいと柄にもない事を思ってしまう。


「小芭内さん?」

「お前は綺麗だな」

「えっ!?」

「その真っ直ぐで柔らかな瞳も、芯のある強き心も…俺には眩しい程だ」

「…そんなの、小芭内さんだってそうです」

「俺が綺麗?そんな訳無いだろう」


そうだ。だって俺はこんなにも。
そう言いかけた俺の唇を口布の上から人差し指が抑えた。


「小芭内さんがご自分のことをなんと思っているかは私だって少しくらい勘付いてますよ。でも、そこを含め心が綺麗な人だから過剰に自分を責めてしまうんじゃないかなって思うんです」


ゆっくりと喋る月陽の言葉がやけに鮮明に聞こえて、黒ずみ崩れそうな心を包み込んでくれる。
言葉を掛けられただけで綺麗になるわけが無い事くらい自分でも分かっているのに、何故だか少し浄化された気分になった。


「と言っても小芭内さんはどうしても自分を責めてしまうんでしょうね。それならその分、私が貴方を大切にしますから」

「……月陽」

「ふふ、擽ったい」


嬉しくて、月陽の頬を指先で撫でると穏やかに笑いながら肩を竦める。
きっとこれが愛しいと言う気持ちなのだろう。

この女の全てを守ってやりたいと思ってしまった。


「小芭内さん?」

「今の言葉、本当だろうな」

「勿論ですよ!」

「なら俺にもお前を大切にさせろ」


ゆっくりと身体を起こした俺を不思議そうに見ながら首を傾げる月陽を抱き寄せる。
きっと月陽の言う大切は俺の大切にするとは違う意味だろう。


「いっ、あっ…あの」

「どうした」

「そんな事されたら、私期待しちゃいます」

「…!?」


羽織を恐る恐る掴んだ月陽は身を預けるようにして俺の身体を抱き返す。
驚いたのは俺の方だった。


「期待するとはどういう意味だ」

「いやっ、その…え、言わせます?」

「聞きたい」

「えぇーっ…」

「聞かせろ、お前のその口から」


顎を掬い潤む瞳を見つめると、忙しなく視線を彷徨わせる月陽に自然と笑みが浮かぶ。


「お前が言わぬのなら聞き出してみせるだけだな」

「えっ、」

「どれ程持つか試してやる」


優しく床に押し倒した俺は月陽の身体を縫い付け耳元に口を寄せる。


「さぁ、どうしてやろうか」

「ひぇっ…耳元で囁かないで下さい…」

「仕方がないだろう。お前の気持ちを聞き出す為ならば、色々な手を使ってでも聞き出さないとな」

「そ、そういう小芭内さんはどうなんですか!」


わざと耳の後ろに唇を当てながら喋れば羽織を掴んだまま必死に藻掻く月陽に身体を押し返される。


「好きだ」

「…もう何なんですか本当に小芭内さんかっこいい」

「さぁ、俺は答えてやったんだ。お前も早く答えろ」

「うぅ…」


そう言えば俺の首筋に腕を回した月陽は耳元に顔を寄せ、本当に小さな声で囁いた。


「私も大好きです、小芭内さん」

「…答えた以上離してやる事はないと思えよ、月陽」


あぁ、想い合うという事はこんなに幸せな事なのか。

煽るようなその視線に誘われて、薄く柔からな唇を奪ってやった。




End.

冨岡さんの所では無く、伊黒さんの所に行った月陽ちゃんif話。