※月の子一部ら辺、付き合っている。


「たまには二人でゆっくりしておいで」


こう言ったお館様の計らいにより俺と月陽は二人で都会から少し離れた旅館に泊まりに来ていた。
勿論刀は肌見離さず持っているが、身に纏っているのは隊服ではなく普段着を着ている。

簪をつけ、化粧を施した月陽が楽している手を取り小さな身体を引き寄せた。


「あ、ごめんなさい」

「物珍しいのは分かるが離れるな」

「はい」


辺りを見渡せば湯畑が広がり、湯治に来ている客や旅行できた客やらで意外と賑わっている。
道行く男が月陽を見て振り返っているのも気に食わないが、俺が手を繋げば残念そうな顔をして顔を逸らした。


「湯畑ってとても素敵ですね!」

「そうだな」

「義勇さんは此処へ来たことは?」

「あるにはあるがこうしてゆっくりする機会は無かった」

「そうですか!私は来る事自体が初めてで…こんな綺麗な景色があるなんて知りませんでした。きっと夜はもっと凄いんでしょうね」


太陽に照らされる月陽の横顔のが綺麗だと思う。なんて言えるわけもなく、同意するように手に力を込めた。

その意図を組んでくれたのか振り返り微笑んでくれる月陽に頬が緩む。
休日をこんな風に過ごす日がするなど、月陽が来るまでは考えたことなど無かった。


「義勇さん、温泉卵食べましょう」

「あぁ」

「すみません、2つくださいませんか」


俺の返事を聞くなりすぐに買いに行った月陽に手を引っ張られながらついていく。

温泉まんじゅうや山菜そばを食べ旅館へ着くと、随分と広い部屋へ通された。
どうやらこの旅館は時間ごとに混浴が可能と説明され、月陽に視線をやればいつぞやを思い出したのか勢い良く顔をそらされる。


「……」

「義勇さん、今回は絶対駄目ですからね」

「貸し切りじゃないからしない」

「貸し切りだったとしても駄目です」


めっ、とまるで子どもを叱るように人差し指で俺の唇を抑えた月陽が可愛くて困る。
腰に手を添えて座った自分の膝に座らせ抱き締めながら良い香りのする首筋に顔を埋めた。

風呂も洗濯物も同じものを使っているのにどうしてこうも香りが違うのか。


「もう、擽ったい」

「ん」

「だ、駄目ですよ義勇さん」

「……」

「そんな顔しても駄目。これからお夕食運んでくださるって言ってたでしょう?今は我慢してください」


項を撫でながら耳裏へ口付けようとすれば、強めの力で押し返され不満げな視線を送る。
首を横に振る月陽を無言で見続けていると小さく息を吐いて俺の両頬を包んだ。


「ね、夜まで駄目って言ってる訳じゃないんです。だから我慢して下さい」

「なら口吸いくらいしたい」

「……ん"んっ」


膝の上に座っているせいか、少しだけ視線の上に居る月陽の瞳を見ながら首を傾げると、何故か頬を染めながら咳払いをしている。
もう一押しか。


「月陽…」

「もう…義勇さんてばズルい」

「ズルくたっていい」


後ろ首を引き寄せ唇を合わせる。
触れ合っただけで心が満たされるなんて恋というものは不思議だ。

何度も角度を変え啄むような口付けをしながら剣士としては細い身体を抱き締める。


「…っ、ふ」

(この顔を知っているのは、俺だけか)


そう思うと不思議と口角が上がり、月陽にバレないよう薄く微笑んだ。
俺以外の誰も知らない月陽の一面。

少し強めに唇を吸って顔を離せば息を荒げこちらを見ている。

誰にも渡したくない。
こんな顔、見せたくない。


「…義勇さん?」

「渡さない」

「え?」

「月陽の心も、身体も…命も。誰にも渡したりなどしない」


守りたいんだ、お前の全てを。
側に居て欲しい。

目を大きく開いた月陽の手を取り口付ける。
早く鬼など居なくなれば、誰にも奪えないようすぐ嫁に迎えるのに。


「…何だか照れますね」

「重いか」

「いいえ。まったく」


初めて恋をした。
元々話すのは得意ではないし、どう行動したらいいかも分からない。
何をしたら月陽が喜ぶのか分からない。

だが、前に言われた通り言葉にするだけでも月陽は嬉しそうに俺の顔を腕で包んでくれた。

今度宇髄に何をすれば女性が喜ぶのか聞いてみよう。
こんなに嬉しそうにしてくれるのなら、何でも試して見る価値はある。

そう思える程に俺は月陽に骨抜きにされている自覚がある。


「月陽は俺がズルいと言うが」

「?」

「こっちからしたらお前のほうがもっとズルい」


その天真爛漫で誇り高き心はどんな者も魅了してしまうのだから。