何やら小声で言い争う声で私の意識は浮上した。
煩いと思いながら瞼を擦ると、ずっと抱っこしていたのか傷だらけの不死川様の腕が見える。


「んー…」

「テメェが五月蝿えから起きちまっただろうがァ」

「俺は五月蝿くない」


あれ、聞き覚えのある声がもう一つ聞こえる。
薄目を開けて確認すると、冨岡さんが居た。


「とみおかさん」

「月陽、こっちへ来い」

「……んー」


手を伸ばそうとすると、ズイッと高く抱き上げられ目がぱっちり開いた。
私の脇に手を差し込んだ不死川様が高い高いしてくれている。

待って、だから私は子どもじゃ…


「あはははは!!」


待って凄く楽しい!!
視界が低くなったり高くなったりして、たまに手が離れてふわっとする浮遊感凄く楽しい。

ついつい笑い声を上げてしまう私に気を良くしたのか、上手に抱っこしてくれながら冨岡さんへ得意気な笑みを見せた不死川様に眉間にシワを寄せている。


「俺のが楽しいってよォ?冨岡ァ!」

「月陽は子どもじゃない」

「いやけっこう楽しいですよ冨岡さん」


あ、やってしまった。
そう思った時には時すでに遅し。

明らかにムっとした冨岡さんが懐に手を入れる。
何をする気だろうかと様子を見ていると、何故か草の葉に包まれた菓子を出した。


「来い月陽」

「……もしや草餅ですか」

「食べたいだろう」

「た、たべたい…!」 


寝起きにすぐお菓子と言うのは気が引けるけれどちょうどお腹は空いていた。
口から垂れそうになる涎に気を付けながら義勇さんへ手を伸ばすと一瞬で身体を攫われ膝の上に乗せられる。


「きちんと座って食べろ」

「はーい」

「テメェ…菓子は卑怯だろォが」

「月陽が疲れているだろうと思って買ってきた物だ。卑怯じゃない」


ぎゅ、と背中を抱き締められて冨岡さんがどんな顔をしているかは分からないけど、とにかく目の前にある草餅を口に含んだ。
美味しい。


「おいひぃ」

「そうか」

「……チッ」


もちもちの生地の中にあっさりとした餡子が美味しい。
しかも粒あんだからたまにする皮の食感が好み。

こっちを睨みつける不死川様の視線が気になって、仕方がないと食べかけの草餅を口に詰め込んであげた。


「ケンカはめっ!ですよ」

「……」

「!?」

「義勇さんもどうぞ」


2つ入っていた草餅をもう一つ取り出して冨岡さんの口にも突っ込んであげる。
二人ともしっかりと無言で咀嚼をして飲み込む姿はとても愛らしいし、お行儀がいい。


「えらいえらい」

「ぶっ!」


短い腕を伸ばして二人の頭を撫でてあげれば、どえらい勢いで不死川様が噎せた。
本来の私なら恐れ多くて出来ないけど、子どもの姿だしちょっとだけ退行している頭でまぁいいかと解決する。


「みんなで半分ずつするともっとおいしいですね!」

「…そうだな」

「チッ…何で俺が冨岡と…おい、餡子ついてんぞォ」


冨岡さんは嬉しそうにする私の頭を撫でてくれるし、不死川様は口元についてしまった餡子を拭ってくれるし何だかとっても平和だ。


「えへへ」

「つーかよォ」

「何だ」

「テメェに話しかけてねぇよ!いつになったらコイツの血鬼術は解けるんだァ」


びし、と指をさされて私と冨岡さんの動きが止まる。
普通に過ごしてたけど確かに結構時間は経っているはず。


「…どうしましょう冨岡さん」

「大丈夫だ、俺が育てる」

「お父さん!」

「ボケかましてんじゃねぇ馬鹿かお前らは!」


冨岡さんに拳骨が落とされ、私には優しいでこぴんをした不死川様。
女の子と子どもには優しいんだなぁと片手に残った冨岡さんの食べ掛けを口に含んだ。

今度どこの草餅か聞こう。


「そろそろ胡蝶に見せるか何かしたらどうだァ」

「なら俺が連れて行く」

「んぐ!?」


青筋を立て始めた不死川様の血管を見ていたら、ドクンと身体が熱くなって飲み込もうとしていた草餅が喉に詰まる。

暑い、苦しい。

ゴホゴホと咳き込んだ私に気が付いた二人が心配そうに顔をのぞき込んだ瞬間、ビリと何かが破ける音がした。


「………え」


ボワンと変な音と共に視界がいつもの高さに戻り、私を膝に抱えていた冨岡さんと不死川様が一時停止する。


「ぎっ…ぎゃーーー!!!見ないで!!」

「ばっ、蹴んじゃねぇ!」

「!?!?」


布の面積が足りなくて大事な所を抑えた私はジタバタ暴れながら近くに畳んであった自分の隊服に手を伸ばす。
破れたのは下着と帯だけで、中途半端に着物を着ている自分が恥ずかしい。

テンパった義勇さんは目にも止まらぬ速さで私の腰へ羽織を掛けて、不死川様は一瞬で部屋の外へ出てくれた。


「もうヤダ…!お嫁に行けない…」

「俺は何も見てない、大丈夫だ」

「冨岡さん鼻血出てますからね!」


ついでに不死川様が出ていった襖の方にも血痕が繋がってる。


「着替えるので早く出て行ってください!もう!」

「綺麗だったから気にしなくていい」

「ばかー!!」


ほら見てたじゃん!
真顔で鼻血垂らしてた冨岡さんは私の中で変態認定しておいた。

その後不死川様が服を着た私に殴ってくれと懇願してきたのでそれもそれで大変だった。



おわる。

綺麗なお尻の夢主ちゃん。笑