どうやら炭治郎達もそれぞれ無事だったようで、余りに楽しそうな声を上げる私達(楽しそうなのは私だけだけど)の周りに集まってくる。

着てる服、皆びちょびちょでまた笑いがこみ上げた。


「楽しそうだな」

「はい!凄く!」

「そうか」


水が膝辺りになると、それまで離さないで居てくれた義勇さんの腕が離れていく。
ちょっとだけ寂しいけど、炭治郎達が居る手前余りベタベタするわけにもいかないから仕方が無い。


「大丈夫でしたか?月陽さん」

「うん、義勇さんが居てくれたからね!」

「俺も冨岡さんの滝壺で一緒に落ちてみたいです」

「今度やって貰うといいよ!」


白目向いてる善逸と、箱の中に入ったままの禰豆子を背負ったまま川から上がった炭治郎の筋力に感心しながら羽織りの水を切る義勇さんへ振り返る。


「………」

「月陽さん?」

「……はっ!見惚れてた!」


いつもはふわふわと浮いた髪が水のお陰で濡れていて、妙な色気を醸し出す義勇さんをついガン見してしまった。
かっこいい。綺麗。水の神様かと思った。

純粋な炭治郎には見られないよう邪な視線を隠そうと視線を反らして自分の羽織りと重くなった隊服を脱ぐ。


「…あ、ねぇねぇ!これ、もしかして私も水の呼吸の剣士になれそう!」

「んなっ、何で脱いでるんですか!?」

「義勇さん、炭治郎!見ててね!」


シャツは着ていると言うのにどうして炭治郎は顔を真っ赤にするのだろう。

でもそんな事より閃いた事を見てもらいたい。

私はいつも見ている義勇さんの真似をしながら手を刀のつもりで構えた。


「水の呼吸…壱ノ型」

「あん?」

「水面斬りっ!!」


バシャ、と音を立てて水面を斬れば近くに居た伊之助の顔面に水が掛かる。
猪の被り物は濡れたからか外しているし丁度いい。

さっきの仕返しだと顔面をびちゃびちゃに濡らした伊之助の綺麗な瞳が瞬くのを見ながら口角を上げた。


「…やったなコラ!!」

「あはは、上手ですよ!月陽さん!」

「ありがとうございます、炭治郎先輩!」

「せ、先輩っ!?」


水の呼吸に関しては炭治郎のが先輩だからと言ってみたらどうやら新鮮だったようでとても嬉しそうにしている。


「俺流水の呼吸…喰い裂き!!」

「つめてっ!おま、伊之助!何すんだよ!」

「それは獣の呼吸だろう、伊之助」


白目を剥いていた善逸が伊之助のお陰で目を覚ましてまた追いかけっこが始まる。
そう言えば私の行動に何も突っ込まない義勇さんが気になって振り返れば顎に手を当て真剣な目で私を見ていた。


「義勇さん?」

「月陽が…水の呼吸…」

「……むふふ」


どうやら私の視線には気が付いていない様だ。
もしかしたら中途半端な構えに何か思う事でもあるのかもしれないけど、こちらが何をするのか分かっていないならまたとない機会。


「水の呼吸…え、えと…漆ノ型!雫波紋突き!!」


さっきは手を開いていたけれど、今度はそれを拳にして水面を突くように叩いた。
それなりの衝撃を与えられた水は勿論義勇さんの顔目掛けて飛んでいき、案の定びしょ濡れにする。


「……月陽」

「どうです?私の水の呼吸!」

「俺が稽古をつけてやる」

「わわ、本気ですか!?」

「覚悟するといい」


一瞬時の止まった義勇さんだったけど、ふと目が細まりこれはいけないと私の直感が訴えた。
楽しんでるのはいいけど、完全に本気にさせたやつだ。
私には分かる。

刀ではなく、私と同じ様に手を構えた義勇さんが一瞬で隣に移動してきて…


「ぶっ!」


物凄い量の水が私の顔面を襲った。
流石は水柱様なのか、水の量と勢いが私とは全然違う。
大人気ない。付き合ってきて今までにないくらい義勇さんが大人気ない。
一つしか違わないけど。


「やーりーまーしーたーねー」

「来い」

「おっ、半々羽織りと月陽がやりあってんぞ!」

「えぇっ!?」

「月陽さぁ〜ん!頑張って下さ〜いっ!」


これが何の稽古だか分からないけど、私達は勿論炭治郎達も巻き込んでそのまま水遊びを満喫した。
その後は服を乾かすために火を起こしつつ魚を取ってお昼ご飯を食べたり、木の実や花を見つけたりしたりと充実した時間を過ごせた気がする。

炭治郎達を見送って、私達は自分たちの家に帰る。


「楽しかったですね、義勇さん」

「そうだな」

「鬼が居なくなって、平和になったらまたこうして遊びたいな」

「あぁ」


炭治郎達が見えなくなった後、さり気なく繋がれた手を握り返しながら微笑むと義勇さんも笑い返してくれた。
気がする。

後日、結局服が乾かなくて半乾きのまま帰った義勇さんを除く私達は風邪を引き、しのぶさんにしっかりとお叱りを受けた。




end.

長編を書いていて心がしんどくなってきたので息抜きに。笑
かまぼこたちと戯れるお話を。