「わー!つやつやのどんぐりだ!」

「何っ!!見せてみろ!」

「ふふ、伊之助にこれあげる」

「良かったなぁ伊之助!」


私は今日、休暇である。
そして。


「ぎゃぁぁぁ!!何で水柱も居るの!?月陽さん在る所俺も在りって!?ふざけんな、折角可愛い月陽さんとキャッキャうふふしようと…ッキャーッ!ごめんなさい!!」


義勇さんも休暇です。

前に炭治郎から山に遊びに行かないかと誘われて、結構時間が経ってしまったけど今日やっと約束を果たす事ができた。

今は日中だから禰豆子は出て来れないけど、皆で鍛錬がてら追いかけっこをしながら登ってる。

善逸も義勇さんも楽しそう。


「あんなに楽しそうに走り回る義勇さん初めて見た」

「あ?アレが楽しそうなのか?月陽、お前目でも腐ってんじゃ…イッテーー!!!」

「誰の目が腐ってるんだ?」

「もー、義勇さん駄目じゃないですか。どんぐり投げ付けたら」


最初は炭治郎に誘われたから仕方なくと言っていたのに、可愛い後輩たちのお陰か何だかんだ楽しんでいる義勇さんも可愛くて頬が緩む。

伊之助の上半身にどんぐりの帽子が突き刺さっててちょっと面白い。


「テメェこのむっつり助平!やっちまうぞ、あぁん!?」

「やってみろ」

「ムキーッ!!」

「こら伊之助!冨岡さんはむっつり助平じゃない!少し照れ屋なだけだと何度言えばいいんだ!」


義勇さんて助平扱いされてるんだと思いながら静かな善逸を探す為に視線を移すと、少し離れた所でどこから持ってきたのやら蔦でぐるぐる巻にされていた。

必死に体を動かしてる姿が何だか虫みたいで面白い。


「んふっ…善逸、大丈夫?」

「ん"ーーーっ!!んんんんっ、んっんっ!」

「あはは、なんて言ってるか分からないよ!」


口まで抑えられているからなのか、喜んでいる気はするけど何を伝えたいのかは分からない。

遊びってやっぱり楽しいな。

視界の端でどんぐり投げ合う義勇さん達を捉えながら善逸の蔦を解いてやる。

目が見えてきたその瞬間、善逸の視線を遮るように枝が擦れ擦れで地面に突き刺さった。
甲高い善逸の叫び声が山に響き渡る。


「ぎぃやぁぁぁーーーっ!!!!」

「ぎ、義勇さん?」

「我妻。目を閉じていろ。目を開けたら……」

「開けません!開けませんから!!何なのこの人ぉ!自分で縛っておきながらさぁ!!!もうちょっとだったのに!!!」

「?」


隙あり、と伊之助が投げたどんぐりを避けながら善逸を睨み付けている。
どうしたの言うのだろうか。

私はただしゃがんで善逸の蔦を取っているだけなのに。


「月陽さん!ちゃ、ちゃんと下を隠して下さい!」

「…あ、忘れてた」

「忘れてたじゃない」


すぐ横に降り立った義勇さんに額を小突かれへらりと笑い返せばため息が返ってきた。

炭治郎は視線を逸らしながら蔦を解くのを手伝ってくれている。


「お前はどうして胡蝶のような服にしない」

「支給されたのがこれだったの…でっ!」

「むはははは!ざまぁみろ、半々羽織り!あ?」

「いーのーすーけー」


大きな葉っぱが話している最中顔に貼り付き、それを投げた犯人に笑顔を向ける。

伊之助は間違いなく義勇さんに投げたけど、彼がそれを避けて私に当たった。

それでもやられたらやり返すのが遊びの流儀。


「おりゃー!!」

「次はお前か!掛かってこい破廉恥女ぁ!」

「誰が破廉恥ですか!」

「すみません、すみません!伊之助がすみません」


善逸を炭治郎に任せて楽しそうに笑いながら逃げる伊之助を追いかけ始める。

山の王と自負するだけあって、確かに地の利を活かした逃げ方をするけど…私だって伊達に山道で鬼を狩ってきた訳じゃ無い。


「やり返してやるー!覚悟、伊之助!」

「なーっはっはっは!やれるもんならやってみ…あ」

「え?」

「月陽!」

「あっ、駄目です冨岡さん!」


体全部を使って伊之助を捕獲しようと飛び付いた瞬間、足が何故か地につかない。

伊之助と私の体が宙に浮いて、私を掴んだ義勇さんも支えきれなくて引っ張られる。
それを炭治郎が助けようとしたけど、勿論炭治郎だけじゃ大人三人分の体重を支えられる訳がない。


「待ってよ炭治郎!俺を置いてかないでぇ!」


そして追加でもう一人。

そりゃ落ちますよね。


「きゃああぁあ!!!」

「掴まっていろ」


嫌な浮遊感に叫べば、相変わらず冷静な義勇さんが抱き締めてくれてちょっと落ち着く。
もしかしてこれはアレなのではないかと私を抱いたまま刀を構える彼にあの台詞を言おうと同じ方向へ視線を向けた。


「水の呼吸…」

「派手派手着水の型!」

「………滝壺」


何か言いたげな間があったけど、とりあえず優先事項は突っ込みではなく私の安全だったようで極力威力を抑えた滝壺を見せてくれた。

私達を中心に波紋が広がるのがとっても綺麗で楽しい。

落ちた時とは打って変わって私は笑い声を上げながら水の中へ体を沈めた。



.