片腕を失った私は隠として鬼殺隊に関わらせてもらう形になった。 「よく生きて戻った」 冨岡さんは、蝶屋敷で療養する私の元へ来て一言そう告げる。 狐面の言った通りで少し癪だけど私の為に冨岡さんが来てくれたのが嬉しくて、笑いながら涙を流した。 「冨岡さんは、好きな人居ますか?」 「…いる」 「月陽さん?」 名前を出して聞けば冨岡さんは目を逸らしながら黙ってしまう。 何となく、何となくだけど狐面は月陽さんじゃないのだろうかとあれから考えた。 私は耳も良いし勘も良い方だ。 冨岡さん、と言った狐面の声は私と同じ響きを持っていたから。 「私、冨岡さんが好きです」 「…すまない」 「あはは、振られちゃった。でも、仕方無いや。ムカつくけどあの子には勝てないもん」 「お前は月陽と仲が良かったか?」 「仲良しなわけないじゃないですか。恋敵ですし」 月陽さんの話題だと少しだけ乗ってくるのもムカつく。 でも、冨岡さんが嬉しそうだから仕方ないな。 否定したら少しだけ落ち込んだように見えたけど、彼女の事になると表情がよく変わるなってまたちょっと嫉妬しちゃう。 月陽さんの事をどこまで知ってるかは分からないけど、腹いせにちょっと意地悪しちゃおうかな。 「月陽さん、蛇柱と夜に会ってたみたいだから早くしないと取られちゃいますよ」 「……」 「もう剣は握れないけど、今までと違った所から応援してます」 あの子だって冨岡さんが好きな事知ってるから、蛇柱に揺らぐような事は無いと思うけど。 黙り込んで考えている冨岡さんに思わず吹き出した。 「伊黒には、負けない」 でもしっかりと、私の目を見て告げた冨岡さんに目尻が下がる。 仮にも貴方が好きだって言った女の子に別の子への想いを言葉にするなんて冨岡さんらしい。 「…さよなら、冨岡さん」 背中を向けて病室を後にしようとした冨岡さんへ別れを告げる。 ふと立ち止まった彼は涼し気な顔で振り向き首を傾げた。 「隠として働くんだろう。また会った時は頼む」 「……あはは!もう、そういう所ですよ。分かりました、またお会いしたらよろしくお願いします」 「あぁ」 今度こそ出ていった冨岡さんを見送って俯く。 布団に染みが広がるのを眺めながら口を真一文字に結んだ。 私の恋は終わってしまったんだ。 声を押し殺しながら泣いた。 ―――― ――― ―― 「月柱!?」 「しかも水柱と結婚するんだってよ」 先輩の後藤さんに聞いた話に私は目を見開いて声を上げた。 後藤さんも蒼葉さんのお店に通っていたし、落胆している様子から月陽さんが好きだったのかと思いながら助けてもらった時の事を思い出す。 「…まぁ、確かにその実力はありますもんね」 「え、何?お前何か知ってんの?」 「助けてもらったんですよ」 すかすかの左袖を揺らせば後藤さんはなる程、と呟いた。 それにしてもまさか結婚するなんて。 けしかけ過ぎたのかなって苦笑を浮かべながら二人を思い出す。 「月陽、元々鬼殺隊に居たんだよ。とある鬼のせいで鬼殺隊全員から記憶がなくなってたらしくてさ」 「血鬼術に?そんな、柱まで…」 「水柱とも付き合ってたらしいけど、記憶が無いからまた一から。知り合いから、恋仲から忘れられるってどんだけ辛い思いしたんだろうな」 後藤さんのその言葉に私はあの時の寂しそうな月陽さんを思い出す。 仲間から、恋人から忘れられた挙句居場所さえ失った。 今は亡き炎柱も蒼葉さんのお店に通い、月陽さんとよく話していたと言うのも後に聞いていて、あの時の言葉の意味をやっと理解する事が出来た。 「義勇さん、待って待って!不死川様がそっちに居るから!」 「あっちには伊黒が居る」 「小芭内さんのがマシでしょう?物理的に」 「伊黒が良いのか」 噂をしていたら何とやら。 仲良さそうに話す二人が手を繋ぎながら私達の少し向こうを歩いている。 「小芭内さんが良いに決まってます!」 「浮気か」 「何か違う!言葉の捉え方が違ってる!」 言い争いながらも離れない絡んだ指先は二人の仲を表しているようで私は後藤さんと目を合わせて苦笑した。 見せつけてくれちゃって。 「月陽ってさ、水柱の前だとすげー可愛いんだよな」 「冨岡さん、凄く嬉しそう」 「え、いつもの真顔じゃねぇ?」 「ふふ、後藤さんまだまだですねぇ」 あんなに嬉しそうで幸せそうな冨岡さん、見たことない。 目を凝らす様に眺める後藤さんの視線に気付いたのか二人が私達の方へ振り向いた。 「あ!」 目が合った瞬間笑顔で此方に手を振ってくる。 同じ女の子としても、隊士としても羨ましい。 あんなに愛されて、人を守れるくらい強くて。 柱合会議があるからなのか、そのまま歩みを止めることなく二人は屋敷の奥へ向かっていく。 私はすぅ、と大きく息を吸って口に片手を当てた。 「お幸せに!!!」 「ぅおっ、急にデケェ声出すなよ」 ありがとう、と返してくれた月陽さんと、穏やかに目を細めた冨岡さんに鼻の奥がツンとして変な笑顔になってしまう。 生きて、幸せになってよね。 そうじゃなきゃ、許さないんだから。 end. 名無し子ちゃん目線でした。 冨岡さんモテるから彼女いないと知った隊士は誰かしら彼に恋をしてると思う(個人的趣味) ←→ |