宇髄様が目星を付けていた店へ行き、とりあえず三人を一人ずつ三店舗に分けるという作戦を聞いた私達は五人で吉原の街を歩いていた。


「ちょいと旦那。この子、うちで引き取らせて貰うよ。いいかい?」


炭子が貰われて行った後、伊之助を穴が開くほど見ていた荻本屋の遣手に声をかけられ宇髄様はちょうどいいと人の良い笑みを浮かべる。

私がその様子を後ろから眺めていると、細いキツめの瞳と目が合った。


「…旦那、その子は?」

「あぁ、別嬪でしょう。これから色々な店に行って言い値で買ってくれる所を探そうと思ってたんですよ」

「ふぅん…他の店に貰われるには勿体無い容姿だね。幾らだい」

「流石は荻本屋さん。お目が高い」


ぺらぺらと交渉を進める宇髄様に苦笑しながら隣で舌を出したままの伊之助を見る。
炭治郎は嘘はつけないけれど何とかうまくやれるだろう。
善逸も女の子に弱い所はあるけれど頭の回転はいい子だと思う。

伊之助は機転や直感が凄く鋭い子だけれど、私生活での不安があるのは多分この子。

本当は須寿音さんの所で上手くやろうと思ったけどこの配分は悪くないかも知れない。


「おい月陽、お前はこれから荻本屋さんで働く事になったぞ。しっかりやれよ」

「…はい」

「さ、行くよアンタ達」


一体幾ら払ってくれたのだろうと思ったけれど、さっさと歩く遣手の女性の背中を追いながら宇髄様と善逸の方に振り返れば強く一度だけ頷かれた。

にしても善逸はどうしてあんなに絶望した顔してるんだろうか。


「猪子」

「?」

「私が居るからね」


よしよし、と頭を撫でればほわっと何かが伊之助の周りに咲いた気がした。
大丈夫だよ、伊之助。間違いなく君にとって不便な事ばかりの廓暮らし、私が何とか上手くやるから!


「ここがアンタらの店だ。しっかり学んでいい客掴まえな」

「はい」


伊之助の代わりに返事をして廓の中へ踏み込む。
何だか嫌な気配はするけれど、どこからその気配がしてるのかは探してみないと分からない。

伊之助に視線をやれば私の意図を理解してくれたのかニヒヒと笑い声を上げて頷いてくれた。
だから低い声出しちゃ駄目だってば。


「あの、すみません」

「なんだい?」

「私と猪子を一緒の部屋にしていただけませんか。まだ分からない事だらけですし、この子も小さいので…」


ここで暮らす女性がどんな暮らしをしているかは知らない。
でも、伊之助と別部屋にされては困る。

伊之助の身体を抱き寄せながら遣手の女性へ声を掛けると、少し悩んだ仕草を見せた後一言いいよと許可を貰えた。


「良かったね、猪子。これから一緒に頑張ろう」


そう笑い掛ければ黙ったまま頷いてくれた。
よしよし、偉いぞ。

廓についてすぐ伊之助は化粧を落とされた後、すぐに私の部屋に戻って来てビタリと床に伏した。
慣れない着物で疲れたんだと思ってとりあえず背中を撫でてあげると不服そうな顔を上げる。


「小さい声でなら話していいよ」

「窮屈だ」

「そうだよね。でも我慢してて伊之助偉いよ」

「るせー」


いつもより覇気のない伊之助に苦笑しながら少しだけ着物を緩めてあげようと身体を起こすように引っ張れば、渋々言うことを聞いてくれる。


「私と二人の時だけは緩めてあげる」

「…俺こんなん直せねぇぞ」

「私が居るでしょ。ちゃんと一人でも着れるように教えてあげるから安心して」

「はぁ?覚える必要なんてねぇだろ」

「えー、伊之助なら早着替え出来ると思ったんだけど無理だったかぁ」


それじゃあ仕方がないなぁと言えば表情がムッとしたので乗ってきたな、と内心口角を上げながら言葉を続ける。


「じゃあ私がいつでもお手伝いしてあげるね」

「何言ってんだこんくらい出来るってんだよ!一回見りゃ余裕だぜ!」

「お、じゃあよく見ててね」


とりあえず胸元と帯を緩めてあげて、自分の着物を脱ぐ。
襦袢は着てるし大丈夫だろう。

帯を解く私をしっかり見ている伊之助の視線はとても真剣だし。


「じゃあまずは…」

「お前コレ邪魔じゃねぇのか」

「………ん?」


わしっと掴まれた胸に視線を落とすと、真剣な顔で揉みしだく伊之助に動きを止めた。
別に下心は感じないけれど女性に対して節度がなさ過ぎる。

苦笑いを浮かべながら伊之助の腕を掴み離すと大きな瞳が私を見ていた。

美人だなぁ。怒られるから言わないけど。


「伊之助、女性の胸を鷲掴みにしたら駄目だよ」

「何でだよ、別に減るもんじゃねぇだろ」

「ふーん。じゃあさ、これされたらどう?」


えーい、と態とらしく伊之助の股間を鷲掴みにしてやると猫の如く飛び上がって私から距離を置いた。
そんなに?


「なななな、何しやがんだ!」

「女性の胸を鷲掴みにするって事は今された事と一緒だよ。分かった?」

「ゴメンナサイ」


ビシッと鼻先を優しくデコピンすると、一気に縮こまった伊之助は素直に謝ってくれた。





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