「………」

「……………」


先日上弦の参と出会したお陰で至る所に傷を追った私は杏寿郎さんを看取った後、隠の方々が到着したので炭治郎達をお願いして蒼葉さんのお家へ帰ってきたのだけれど、私も一緒だったと噂を聞いたらしい義勇さんがお見舞いに来てくれた。

自分で応急手当をした私が蒼葉さんの所へ帰宅した時、それはもう泣いて怒られながら治療をしてもらった。
杏寿郎さんという大きな存在を失い、葬式だけはこっそりと顔を出す事が出来たのだけど。


「あの、義勇さん?」

「…無茶をしたな」

「うっ…」

「煉獄の訃報を聞いた時、お前も共に居たと鴉が教えてくれた」


無表情で私を見つめる義勇さんに視線をそらす。
圧力が凄い。


「ご、ごめんなさい。私が居ながら杏寿郎さんを守れず」

「煉獄は自分の役割を全うした。惜しい人物を亡くしはしたが、それを救えなかったと月陽に言える程俺は何かした訳ではないしそんな立場に居ない」

「……」

「上弦の参を前にしてあれだけの生存者を残せたのは煉獄と、お前や炭治郎達の奮闘したお陰だろう」


最初こそ無言ではあったけれど随分と饒舌になった義勇さんに今度は私が無言になる。

違う、私は何もしていない。
列車の横転の衝撃を和らげたのは杏寿郎さんであるし、列車鬼の頸を切ったのは炭治郎と伊之助だ。
上弦の参も抑えたのは杏寿郎さん。
禰豆子や善逸も乗客を守る為に頑張っていた。


「不甲斐ないです」

「月陽が何と言おうと生きて帰った。それだけでも俺達にとって十分だ」

「……っ」


前に聞いた事のある台詞だ。
腕を固定している私の右手を優しく触れた義勇さんは包帯の隙間から出た指を掴む。


「よく、生きて戻ったな」

「義勇さんは甘過ぎます」

「悪いか」

「えっ、開き直ります?」


眉間にシワを寄せた私に否定もせず堂々と言い張った義勇さんに驚く。
いえ、悪いか悪くないかじゃなくて…。

柱として、もっと厳しい言葉掛けてくれた方が立場的にいいんじゃないんだろうかと思うのだけれど。


「俺が言わずとも、お前は自分で駄目な所を分かっている。それに」

「それに…?」

「鬼狩りの月陽ではなく、俺は女性として月陽を心配している…だけだ」


言っていて恥ずかしくなったのか、最後の方は小声になってしまったが私の耳にはしっかりと届いた。
耳を赤くして目をそらした義勇さんを見つめ、触れてくれている指を見つめる。


「身も心も傷付いたお前に厳しい言葉を掛けられるわけがない」

「……義勇、さん」

「今だけは泣いていい。だが明日からはしっかりと前を向け。煉獄も、きっとそれを望んでいる」


ぼろぼろと涙が出てくる。
杏寿郎さんの前で泣いたから、もう泣かないと決めていたのに身体を気遣いながら抱き締めてくれる義勇さんの体温と香りに我慢していた涙があふれ出した。


「杏寿郎さんが、私を友達と言ってくれました。仲間と言ってくれました。守りたかった、もっともっと私が強かったらとずっと思ってます」

「あぁ」

「何も出来ていない私が泣くなんて、許されないからっ…我慢、してて…」

「友が亡くなって泣かない人間は居ない。皆涙に出るか出ないかの差しかない。涙が出るのなら流せ」

「っ、う…」


二年前、私は殆ど杏寿郎さんとお話ししたことはなかった。
それなのに一番に私を思い出してくれた杏寿郎さん。

大丈夫だと言って私に微笑んでくれた杏寿郎さんの存在に凄く凄く救われた。
お忙しい筈なのに、何度もお店に来てくれて今までの鬼殺隊の話や義勇さんの話も聞かせてくれた。

鬼の情報だけでなく、私の心を気遣ってくれた杏寿郎さんの優しさに感謝してもしきれない。

同い年だし、もっとお話することが出来たかも知れない。
そんな事を思っても、もう杏寿郎さんは居ない。

ありがとうと言いたかった。
これからお友達としても、仲間としても絆を深めて行きたかった。

その想いを言葉には出来なかったけれど、代わりに涙が全てを吐き出してくれた。


子供のように泣く私の背中を撫でながら側に居てくれる。


「今はしっかり休め」

「はい…!私、もっともっと頑張ります」


その日義勇さんは仕事の時間ギリギリまで私の側に居てくれた。
仕事に行く時も私の方を何度も振り返り念を押すような視線を投げ掛ける姿を見えなくなるまで見送った。





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