「…っは!」

「むー!!」


夢から醒めた私は無意識に止めていた息に苦しさを覚え起き上がりながら酸素を取り込む。

側には禰豆子が居て私の腕を掴んでいた。


「ね、禰豆子…」

「むぅ」


起き上がった私に抱き着いた禰豆子の頭を撫でながら辺りを見渡す。
落ちた時に一瞬見えた煉獄様も炭治郎も居ない。

でも近くには目を閉じた善逸が居る。
何で?寝てないかコレ。


「禰豆子、私を守っててくれたの?」

「む!」

「そっか…ありがとう」


あちらこちらから鬼の気配や煉獄様達が戦っている音がする。
私も手伝わなくてはならないとちょっと大きくなった禰豆子と一緒に立ち上がった。


「この人達が手伝っていたんだね」

「……っ!」


後ろを振り向きながらちょうど私へ武器の先端を向ける男性に鋭い視線を向けた。
蹴りで武器を叩き落とすと、鳩尾に一発叩き込む。

気絶したのを確認して今度は日輪刀に手を伸ばし肉塊のような触手を斬るために呼吸を整える。


「禰豆子、善逸!姿勢を低くして!」

「ん!」


善逸の返事は聞こえないけれど、姿勢を低くしたのが視界に入り二本構える。


「月の呼吸、拾壱ノ型 霜月」


この車両の肉塊は繋がっている。それなら凍らせて無力化してしまえばいい。
辺りに氷の刃を飛ばし徐々に凍っていくそれらがパラパラと霜のように砕けて落ちていく。


「むー!!」

「ふふ、ありがとう。私は炭治郎の所に行くから、いい子でこの人達を守ってあげてね。善逸、よろしくね」


無邪気に私へ拍手してくれた禰豆子にお礼を言うと、この辺りはもう大丈夫かと納刀して前方の列車へ向かう。
煉獄様が後方の車両に居るようだからそっちは大丈夫だろうと判断しての行動だ。

伊之助も居ないから炭治郎と居るのかもしれない。

しかし善逸には驚いた。
戦闘の時には人格でも変わるのだろうか、初めて会った時と雰囲気が別物だった気がする。

塊を斬りながら進めば車掌席まで辿り着き、炭治郎と伊之助が応戦する姿が見えた。

刀を抜いて援護をしようと一歩踏み出す。


「炭治郎!」

「月陽さん!今こっちに来たら駄目だ!」

「う、わっ!」


そこにはぎょろぎょろとした目玉が無数にあり、気持ち悪さに引きながら嫌な予感のする塊を切り刻む。
次に行こうと前を向いた瞬間、目玉と視線が合ってしまった。


『どうして見捨てたの?』


母さん。


『お前は呼吸も会得していたのに、何故それを使わなかった』


父さん。


『お前など知らない』


義勇さん。


「……っ、あぁぁぁぁ!!!」


ズキズキと痛む心を抑えながら叫んだ私はもう一度自分の首を斬る。
分かってる。分かってるんだ。

私がもっと早く月の呼吸を会得していれば、あの日買い物になんて行かなければ今頃父さんも母さんも生きて夢の中みたいに過ごしていたかも知れない。

でも、過ぎてしまったんだ。
仕方がないなんて思った事なんて一度もない。

私は進み続けるしか無いから。


「月の呼吸、玖ノ型 長月」

「獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き!!」

「行って炭治郎!」


伊之助と一緒に皮膚のような肉を切り開き刀を構えた炭治郎が頚椎に向かって振り下ろした。


「ヒノカミ神楽 碧羅の天」


鬼と融合した列車ごと頸を斬り落とした炭治郎にほっとしたのも束の間、凄まじい断末魔と揺れが私達を襲う。

のたうち回る鬼と同じくして列車が脱線しこのままでは横転する。


「炭治郎、早くここから離れて!」

「伊之助と月陽さんは、乗客を守…」

「っ、伊之助!こっち!」


炭治郎は車掌の元に行ってしまった。
今は近くに居る伊之助を守らなくちゃいけない。

適当な所に掴まった伊之助を衝撃から少しでも守ろうと強く後から抱きしめた。


「おい!女!」

「黙って守らせなさい!」


派手な音を立てて私達は列車から叩き落とされる。
途中鬼の肉塊が衝撃を和らげてくれたけれど、投げ出された私達は地面に体を打ち付け所々から血を流した。

それでも立てないわけではない傷だ。
伊之助と私はすぐ様起き上がって少し遠くで倒れている炭治郎に向かう。


「大丈夫か!!三太郎」

「いや炭治郎!」

「しっかりしろ!鬼の肉でばいんばいんして助かったぜ。逆にな!」

「炭治郎、お腹…これ鬼や今の衝撃のものじゃないよね」


炭治郎の体を揺さぶり起こした伊之助のお陰で腹部が顕になり流れ出る血に私は眉を寄せた。

少し深い。
気休めの止血だけでは駄目だ。

けれど炭治郎は運転手の心配をして、伊之助を救助に向かわせる。


「…炭治郎」


目を閉じた炭治郎は全集中の常中が出来ている。
けれどそれだけじゃ駄目だ。

気を飛ばしそうな炭治郎に声を掛けようとした瞬間、背後からいつの間にか来ていた煉獄様が私達を覗き込む。


「腹部から出血している。もっと集中して呼吸の精度を上げるんだ。体の隅々まで神経を行き渡らせろ」

「…炭治郎、きちんと煉獄様の言うとおりにしてごらん」


ハァハァと呼吸を整える炭治郎の腹部を持っていた手ぬぐいで抑えながら煉獄様を眺める。
その姿はまるで炭治郎の師匠のように見えた。





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