「冨岡さん、お待たせしました」

「…もういいのか?」

「はい。どこに行きますか?」

「二人になりたい」

「二人になれる所ですか…うーん」


夜の仕込みの手伝いが終わり、少しウトウトしながら待っていた義勇さんの肩を叩けば驚いた顔をして私に振り向いた。

眠いのかもしれないと思いながら席を立つ義勇さんの側に立って二人になれる場所を考える。


「ここから近くの茶屋が二階に個室があっていいよ」

「蒼葉さん」

「冨岡さんもお疲れみたいだし、ゆっくり話しておいで」

「そこでいいですか?」

「あぁ。月陽を借ります」

「行ってきます」


悩む私達を見て蒼葉さんが助言をくれる。
特になんの提案も無かった私達は蒼葉さんに教えてもらった場所へ行こうと決めて、お店を後にした。

町の中心へ向かって歩けば、教えてもらった茶屋にはついたけれど、中に入る前に私達の足が止まる。

いや、個室だけれども。

そう思いながら義勇さんを見れば何とも言えないような顔で茶屋を見上げていた。
どんな気持ちの顔なのこれ。


「…あの、冨岡さん?」

「宿屋なのか、ここは」

「えっ」

「えっ」


こてん、と首を傾げた義勇さんに思わずドン引きした視線を投げかけてしまう。
私の反応に同じく返した義勇さんと見つめ合えば吹き出してしまった。


「何故笑う」

「いえ、可愛らしかったもので。入りましょうか」

「?あぁ」


義勇さんならば大丈夫だろうと手を引いて中に入れば察した店員さんが二階へ案内してくれる。
何も察してはないけどね、うん。そう言うんじゃない。
意気揚々と入った私がとても恥ずかしい。


「…何故布団が」


しまったー!!
忘れてた。見落としていた。

部屋の中央に少し大きめの布団が置かれ、義勇さんが不思議そうに呟く。


「ほ、ほら。宿屋代わりにもなるからじゃないでしょうか」

「あぁ、なるほど」


ふぅ、と息をついて案内してくれた店員さんに苦し紛れの甘味を頼む。
既に何故か布団の上に正座してる義勇さんに頭を抱えたくなりながら側に寄って座布団の上へ座った。


「それで、お話と言うのは?」

「伊黒とはどんな関係なんだ」

「…え、えと、お友達です」

「あいつはただの友達に口付けするのか」


聞きたいこととはこの事だったのかと内心冷や汗をかきながら目をそらす。
なんと言えばいいのだろうか。

想いを告げられたと言っては小芭内さんに申し訳ないような気がする。


「……月陽は誰とでもこうするのか」

「だ、誰とでもな訳じゃ…!」

「ならどうしてだ」


無表情なのに、何故だか寂しそうな義勇さんに言葉に詰まった。
なんて言えばいいのだろうか。


「…すまない。こんな事を問いただされても困るだろう」

「あ、いえ」

「俺は月陽以外に口付けたりしないし、伊黒もそうだと思う」

「……冨岡さん」


布団の上に居た義勇さんが私の側に寄って頬を撫でられる。
けれど私には義勇さんの言葉に返すものがない。

今は戻れない。
これ以上の関係には、なれない。


「それと」

「?」

「狐面は月陽なんだろう」

「……どうして、です?皆私をそう言いますが」

「お館様の屋敷に居たのは月陽だろう。分かるさ、それくらい」


あぁ、やっぱりバレていたんだとどこか他人事のように思った。
しかしお館様からは狐面の私を探す願いは取り消したと言っていたし、言ってもいいのだろうかと思案する。

答えられない事ばかりで何だか自分に嫌気が差す。


「月陽がどういう経緯で先生から貰った面を持っているかは聞かない。何故俺達に隠れるように鬼を狩っていたかも聞かない。だが、狐面が月陽だと言うのなら…羽織を返したいだけだ」

「冨岡さん」

「それぞれ事情がある。お館様を通したというのなら尚更だ。言えない事だからお館様も俺達に言わなかった」

「…ごめん、なさい」


きっと陽縁の事を話したら協力を得られるのだろう。
でも、ただでさえ鬼舞辻の活動が増え忙しい鬼殺隊の人達を巻き込む話ではない。

頬に触れている義勇さんの手に擦り寄りながら謝ると首を横に振ってくれた。

いつも私は人の優しさに甘えてばかりだ。


「月陽、膝枕してほしい」

「え、急ですね…!」

「話したい事は終わった。今は少し休みたい」

「…お疲れのようですしね」


正座をした私の脚を撫でた義勇さんに強請られるまま両腕を広げる。
見れば少し隈がある気がするし、ちょっとくらいならいいかなと思っての行動だったのだけど、広げた私の胸の中に飛び込んできた義勇さんに思わず背筋を伸ばしてしまった。

え、膝枕じゃなかったの?


「月陽の匂いは落ち着くな」

「と、冨岡さ…」

「側に居て…くれ」


結局膝枕なんてせずに、布団へ押し倒しながら夢の中へ旅立った義勇さんに抱き着かれ天井を見上げる。


「私だって、義勇さんの側に居たいですよ」


柔らかい頭を撫でながら、私も目を閉じた。
こうして寝るなんて、久しぶりだな…。








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