「あ」

「あーっ!」


買い出しの途中、久し振りに見えた金髪に私は思わず口を開けた。
甲高い叫び声を上げながら此方へ全力疾走してくる少年は炭治郎の同期の、そう。
我妻善逸。


「善逸、久し振り」

「キャー!お久し振りです!こんな所で会うなんて僕達もしかして運命かもしれませんね!」

「あーうんうん、そうかも」


爆音の声は辺りの視線も容赦無く引っ提げて善逸は私の手を握った。
義勇さん一緒じゃなくて良かった。

その間も善逸は私の隊服を褒めたり、足元を見て鼻血を出したりと忙しい。

元気なようで良かったと思いながら、善逸の暴走を抑えるように金色の髪を撫でてみる。


「ほら、善逸。静かにしないと周りの人に迷惑だよ」

「……すき」

「ありがとう」


きちんと話は聞いてくれていたのか、嬉しそうな顔をしながら手に擦り寄ってくる善逸にとりあえずお礼を言っておく。
物分りのいい子でとても助かる。


「でもごめんね、私結婚したから」

「うっそォ!?何で!?誰と!?」

「義勇さんだよ」

「…アイツ、ちくしょう…顔が良いからって…やる事やってんじゃねぇか…」

「君の情緒は大丈夫?」


上機嫌で撫でられていたと思えばまるで地を這うような声で義勇さんへの愚痴をこぼし始めた善逸に本気で心配になってくる。
相変わらず激しい子だ。

未だにブツブツ言っている善逸に苦笑しながら手を離せば、それに気がついたのかその瞳には大粒の涙があふれてる。

待ってついていけない。


「ど、どうしたの」

「もうヤダ…」

「え?」

「ただでさえ柱稽古が辛いのに…禰豆子ちゃんには会えないわ、月陽さんは結婚しちゃうわ…うぅっ…うぉおおおん!!」

「ぜっ、善逸!とりあえず落ち着こう!?ほら、甘味屋連れてってあげるから!」


今度は全力で泣き出した善逸にギョッとしながら近くの甘味屋まで手を引いていく。
どうやって善逸の世話をしてきたのか今度炭治郎にしっかり聞いておくことにしようと思う。


「ほら、お団子。甘い物は疲れを取るし、食べて」

「ぅっ…グスッ…優しい…女神…天使…」

「大袈裟だなぁ」


鼻水垂らしながら団子をもちもち食べる善逸を見ながら自分の分も口へ入れる。
流石は小芭内さんから教えて貰った甘味屋だ。
みたらし団子のタレが他とは少し違って濃厚。

美味しい美味しいと団子に舌鼓をうっていれば、隣に座る善逸もどうやら元気を取り戻したのか嬉しそうに笑っている。


「美味しい?」

「はい!」

「ふふ、良かった」


やっと大人しくなった善逸はとても可愛らしい。
どうして年下の子はこんなに可愛いのだろうと思いながら禰豆子や炭治郎にお土産を買っていこうかと呟いている。

仕方ないけど伊之助にも…なんて独り言が聞こえて、仲の良さも伺えるし私も思わず笑顔になった。

今日は珠世さんと愈史郎君の所に行こうとしていたけど、その前に義勇さんの食事を作る為買い出しに来ていた。


「善逸は皆が大好きだね」

「禰豆子ちゃんは大好きです!この前の一件で口枷も外れて話せるようになったし…ちっちゃな禰豆子ちゃんも可愛いけどやっぱりどんな禰豆子ちゃんも可愛くて」

「そっかそっか」


禰豆子禰豆子と言ってはいるけどその口からは炭治郎や伊之助の話もぽろぽろと出てきていいなぁ、なんて思う。

私と同期の子は居ないから少し羨ましい。


「ねぇ善逸。そろそろ稽古に行かなくていいの?」

「えっ、あっ…そうだった!!あぁぁん、行きたくない、行きたくないよぉ月陽さぁん!」

「大丈夫だよ、善逸ならやり遂げられるから頑張っておいで。稽古が終わってもっと強くなった善逸、見てみたいなぁ。きっとかっこいいんだろうな」

「…かっこ、いい…?」

「うん」


目をこれでもかと見開いた善逸にくすくす笑いながら頷けば、さっきまでの泣き虫はどこに行ったのかキリリと眉を持ち上げた。
俗に言うこれがキメ顔と言うものだろうかと思いながら勢い良く立ち上がる善逸を見上げる。


「俺、とびっきりのカッコイイ男になってきます」

「うん、そうして。きっと禰豆子も喜ぶよ」

「ね、禰豆子ちゃんも…!」

「町行く女の子も思わず振り向いちゃうかも」

「お、俺っ…俺、行ってきまぁぁす!!」

「はっや…」


とんでもない速度で走り出した善逸に今度は私が驚いていると、急に立ち止まってこちらを振り向く。


「団子、ご馳走様です!あ、後で俺にもご馳走させて下さい!」

「…うん、期待して待ってるね!」


顔を真っ赤にして振り向いた善逸が何を言うのかと思えば、丁寧な子だなと思わず笑ってしまった。
手を振りながらまた禰豆子の名前を叫びながら走っていく背中を見つめる。


「可愛いなぁ」

「誰がだ」

「うわっ、義勇さん!」


独り言を呟けば突然耳元で聞こえた声に体を仰け反らせれば少しだけ不満そうな表情を浮かべた義勇さんが立っている。


「いや、若い子って可愛いなぁと思いまして」

「…無闇矢鱈に口説くのはどうかと思うがな」

「いつから見てたんです?」

「手を握られた所から」

「結構序盤」


いつの間にかお団子代を払ってくれていたのか、私の手を取って歩き出す義勇さんについていきながら顔を覗き込めばふいと逸らされた。
義勇さんも可愛いですよ、と言ったら俺は女じゃないと拗ねた返事が返ってきたけれど握る手に少し力が込められてまた笑ってしまう。

この人はどれだけ私を好きにさせれば気が済むのだろうかなんて思いながら、自分より大きな手をやんわり握り返した。







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