「小芭内さーん!こんにちは!」

「……」

「あっ、月陽じゃない!」

「雨音さん!」


義勇さんに許可を貰って私は小芭内さんが居る稽古場へと遊びに来た。

遊びにと言うよりは、稽古を受けに来たのだけれど。

私の顔を見るなり何故か嫌そうな顔をしてこちらを見ている小芭内さんの後ろから雨音さんがひょっこり顔を出した。


「もう小芭内さんの稽古に来てたんですね」

「そうよー!でもどうして月柱の月陽が此処に?」

「小芭内さんに会いに来ました!」

「……しゅ、修羅場…!?」

「阿呆か貴様は」


私の発言に顔を青くした雨音さんがひぇっ、と声を出した瞬間相変わらずの鋭いツッコミが小芭内さんから入る。
嫌そうな顔はさて置き、括り付けられた隊士を見て私は苦笑を洩らした。


「何ですかこの拷問所は」

「拷問とは失礼な。これも立派な稽古の内だ。仕置という名の」

「相変わらずですね」


涙目になって助けを求める隊士の人達に手を振りながら返事を返すと小芭内さんは自分にひっつく雨音さんを顎で指した。


「とりあえずコレを退かせろ」

「やだ!コレなんて失礼ね!」

「黙れ。俺に引っ付くな鬱陶しい」

「あはは、雨音さんカッコいい人好きですもんね」

「本当は宇髄さんにくっついていたかったのにあんたの二の舞いはごめんだからね」

「そんな事もありましたっけ…はは」


小芭内さんにくっついていると言う事は稽古も終えたのだろうけど離れないから困っていたんだろう。
段々と苛々したオーラを出す小芭内さんを宥めながら雨音さんの隊服を引っ張った。

これ以上は私にもとばっちりが来る。
絶対。


「雨音さん、次は不死川様ですし早く行かないと取られちゃいますよ」

「えっ、嘘!私が狙ってたのよく知ってるわね!」

「胸筋素敵ですもんね」

「早く行かなきゃ!伊黒さんの隠れ筋肉も素敵だけど不死川さんの筋肉には遠く及ばないわ!」

「どういう意味だ貴様…」


わたわたと小芭内さんから離れる雨音さんを見ながらその内、不死川様の所にも行かなきゃいけなくなるなとこっそりため息をついた。


「あ、そうだ」

「どうかしましたか?」

「月陽はあの人の奥さんだから、変な気起こしちゃ駄目だからね?お、ば、な、い、さん」

「………雨音さん」

「帰れ。さっさと貴様は帰れ。そんな事言われなくても知っているし聞いている」


ドスドスと雨音さんの背中を押しながら怒る小芭内さんを見て熱を出した時の自分を思い出す。

忘れていた訳では無いけれど、やはり此処に一人で顔を出すのは駄目だっただろうかと急に不安になってきた。


「おい」

「ど、どうしよう…」

「月陽」

「配慮が足りなかったかもしれない…」

「…聞け」

「ぶわっ!?」


ぶつぶつと独り言を言っていたらいつの間にか隣に帰ってきていた小芭内さんに襟首を引っ張られ変な声が出てしまった。


「な、何をするんですか!」

「何をすると言うよりお前が訪ねてきたのだろう。何の用だ」

「あ、そうだった」

「…はぁ。おい貴様ら、稽古は一度休憩だ。さっさと紐を解いて水でも飯でも補給してこい」


ぽん、と手を叩いた私にため息をついた小芭内さんは吊るされていた隊士達にそう告げて歩き出してしまう。
待ってと声を掛けようと手を上げれば同じタイミングでこちらを向いた小芭内さんと目が合った。

言葉は無いけれど、ついて来いと言う事だろうかと考え上げていた手を下ろし小芭内さんについていく。


「それで、稽古に来ただけか」

「いえ、小芭内さんにも会いに…」

「お前は相変わらず配慮の足りない頭だな。振った男の元へ一人で来るとは」

「うっ…すみません」


やはり怒られるかと肩を竦めながら謝れば、こちらを睨むように見ていた小芭内さんは再び前を向いてしまう。

なんと言ったらいいものかと沈黙する空気に必死で頭を働かせていると、突然目の前に何かが差し出された。


「生憎今は休憩中だ。少し茶に付き合え」

「小芭内さん…」

「祝ってやるつもりなどないが、それでもいいなら上がれ」

「お、お邪魔します!」


差し出されたのは小芭内さんの手だった。
ちょうど足元が段差になっていた事に気付かなかった私はおずおずとその手を取り段差を乗り越える。

支えてくれる手は握られはしないものの、その気遣いが前とは変わらない事に少し嬉しくなってしまう。

段差を超えた私を見届け、すぐに手を離されてしまうけど声の感じからして不機嫌では無い事くらいは分かった。

居間に上がれば首元に居た鏑丸君を下ろし、戸棚からお菓子の箱を取り出してくれる。


「これでも食って少し待っていろ」

「わ!ありがとうございます!」


箱を開ければ大好きな可愛らしい和菓子が7個程入っている。
羽織を掛けて居間を出ていく小芭内さんを見送りながら何から食べようかと箱の中身を覗けば、配色された色合いに動きを止めて私は目を見開いた。








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