「聞きたい事が山程ある」

「…はい」

「記憶がなくなる血鬼術の鬼はどうしたんだ」


あの後近くの町で宿を取った俺は月陽と向かい合わせに座った。

聞けば陽縁と言う永恋夫妻が育てていた子が研究員の養子になり、鬼化の実験台にされたと言われ余りの非道な行いに腹が立ったがそれはそれとして今回の件はまた別だ。


「姉さんは、どこかに行きました。もう人は喰っていません」

「確証はどこにある」

「亡くなる寸前の人の記憶を喰っているそうです。とは言え勿論それまでに人は喰ってしまった。だから、鬼舞辻を倒す時に協力をお願いしました」

「……」


鬼殺隊として隊立違反ではある。
だが永恋夫妻が殺された件も吉原の件も含め、月陽を助けたと言う事は間違いなく自己としての意識があり、鬼舞辻側との交流も無い。

和解をして月陽の力になるというのならば、鬼殺隊を襲わないのであれば炭治郎と禰豆子の様に助け合える存在ではあると言うことだ。


「……一先ずその件はお館様にご相談するべきだ」

「そう、ですよね。私がしてる事違反でしょうし」


肩を落とした月陽の背中を撫でれば困った様に笑い返される。
腕を開いてやれば珍しく自分から抱き着いてきた様子に少し驚きつつも旋毛に口付けてやれば甘えるように擦り寄って来た。


「俺は頼り無いか」

「どうしてですか?」

「………」

「ごめんなさい。記憶が無くなった事を伝えなかったから、ですよね」


結局月陽を好きになった俺なら記憶が無いと言われれば信じたと思う。
協力をして欲しいと言われたら喜んでした筈だ。
そう思って、やはり言うのを辞めた。

月陽に嫌われたくなくて踏み込まない自分だって居たからだ。
もう二度と俺の前に姿を現してくれなくなるんじゃないかと恐れて聞けなかった。


「義勇さんは頼りになりますよ」

「だが、俺は」

「ずっと私の心を支えててくれました。折れずにここまでやって来れたのは義勇さん、貴方にもう一度こうしてもらいたかったから」


目を閉じて俺の心臓の音に耳を傾ける月陽を強く抱きしめた。
居なくなってしまったあの日から、どんなに探しても見つからなかった月陽の温もりが今ここにある。

どれ程会いたかったか、どれ程怖かったか。
だが何処かで生きているはずと思う反面、もしかしたらという気持ちだって少しはあった。


「凄く心配だったんですから、義勇さんの事」

「何故だ」

「ちゃんとご飯食べてるかな、とかちゃんと寝てるかなーとか」

「…それなりには」

「後ね、小芭内さんとか不死川様とかケンカしてしのぶさんや蜜璃さんに迷惑掛けてないかな、とか」

「………」


若干否めない事ばかり突いてくる月陽に思わず顔を逸らせば腕の中から柔らかい笑い声が聞こえてくる。


「それにね、義勇さん…その、かっこいいから…他の子に取られちゃうんじゃないかって…えへへ、ちょっぴり不安になってました」

「それは無い」

「私が居なくなって2年経つし、記憶も無いからわからないじゃないですか」

「俺は、何度だって月陽を好きになる」

「……んんん、もう」


俺の後ろ向きな思考や不安をいつも月陽は拭ってくれる。
いつもいつも、側で支えてくれたのは他の誰でもない月陽の存在だった。


「俺は、水柱として責務を果たす」

「…義勇さん」

「前を向いて行きたいと、思うようになった」

「じゃあ、もう私が肯定しなくても大丈夫なんですね」

「あぁ」


俺の胸に体を預けていた月陽が離れ、指が触れる。


「なら今度は一緒に」

「あぁ」


共に前を向いて歩いていく。
月陽と一緒に、これからずっと。


「最後まで側に居ます」


まだ太陽は上がりきらない二人きりの静かな部屋で俺達は永遠を誓う。
痣が出た月陽の、鬼を倒すと決めた俺の、最期がいつ来るかは分からない。

だからこそ、二人で寄り添い続ける。


「月陽の全て俺のものだ。鬼にも誰にもくれてやるつもりはない」

「勿論です」

「もう二度と離れない。お前は俺が守る」

「…はい」

「愛してるよ、月陽」


そっと布団に押し倒し、一緒に寝転ぶ。
本当ならば今すぐにでも抱きたいが、陽縁と戦った後だ。
小さな身体を抱き締めれば安堵の息が洩れる。


「あれ、いいんですか?」

「煽るな」

「そ、そんなつもりは…」

「なら、いいのか」


そう言えば顔から首まで真っ赤に染めた月陽と目線が絡み合う。
そんな顔されたら俺だって抑えが効かなくなるだろう。

左手で頬を撫でれば強めに目を閉じた月陽に口付けをした。




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